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日産が中国で1兆円を投資するほど魅力的なクルマ

日産自動車は2018年2月、中国で2022年までに1兆円を投資すると発表しました。投資対象は主に電気自動車(EV)です。EVはほんの2、3年前まで、忘れられた技術であり、ハイブリッド車やディーゼル車こそクリーンでエコな自動車と言われていました。

ところがいまやどのメーカーもEV一色です。EVで先行している日産の動向を見ながら、EVと自動車の未来について考えてみました。

 

日産は新規40車種のうち20車種をEVにする

日本経済新聞は2018年2月5日、「日産、中国に1兆円投資 EV20車種以上投入」という見出しで、次のような内容を報じました。

  • 日産の中国での合弁会社が2022年までに600億元(約1兆円)を投資する
  • このお金で新規に40車種を投入する
  • そのうち半分の20車種はEVになる
  • 日産の合弁会社は全車種に占めるEV比率を30%にまで引き上げる

日産のEVにかける意気込みが伝わってきます。

 

日産のEV技術とは

日産にはリーフとノートという2種類のEV(電気自動車)があります。この2種類は「電気で走る」点では同じなのですが、「電気の補充の仕方」で異なります。

 

リーフのすごいところ

リーフは2017年9月に2代目になり、EVの多くの欠点が解消されました。

 

<1回の充電で400㎞走るので安心>

新型リーフは電池の改良が進み、1回の充電で400㎞も走ることができます。これだけ走ることができれば「電欠」の心配は、もうガソリン車の「ガス欠」と同程度といえるでしょう。

 

リーフの充電は、車体の先端部分の「ふた」を開けて、そこに電気を送るケーブルを差し込んで行います。これが一般的なEVの充電のスタイルです。

 

<どれだけ走っても燃料代(電気代)は1カ月2,000円>

電気を満たすのに40分かかります。ガソリン車がガソリンスタンドでガソリンを入れる場合5分もかからないので、最新鋭のリーフでも充電時間はかなりの長時間です。

ただ日産が全国に5,500基用意している充電器を使えば、1カ月の電気代は何回フル充電しても2,000円で済みます。これは明らかにガソリンよりは安いといえます。

 

ノートのすごいところ

日産のノートにはEV以外にも普通のガソリン車もあり、こちらは「普通の小型車」という印象を受けるでしょう。特別とがったデザインでもなく、室内もそこそこ広く、燃費も可もなく不可もなくといったところです。

 

<日産に30年ぶりの日本一をもたらした>

EV版ノートも、見た目はガソリン・ノートと同じなので、目立ったところはありません。ところがそのノートのEVバージョンが2016年11月にとんでもない偉業を成し遂げたのです。国内の新車販売台数で月間No.1に輝いたのです。

それまで30年の間、日産のクルマが月間No.1に輝いたことは1度もありませんでした。30年前に1位を取った日産車はサニーでした。

 

<ガソリンエンジンで発電しながら走るEV>

ノートのEVバージョンはeパワーといいます。ノートeパワー方式とリーフ方式の根本的な違いは、ノートeパワーにはガソリンエンジンが積んであることです。

 

ノートeパワー以外のすべてのEVは、ガソリンエンジンは積んでいません。ガソリンエンジンを取り除くことにEVの良さがあるからです。

 

ではなぜノートeパワーにガソリンエンジンを積んでいるかというと、発電をするためです。ノートeパワーは、ケーブルやコンセントで電気を補充するのではなく、ガソリンスタンドでレギュラーガソリンを入れます。そのガソリンを使ってガソリンエンジンを動かして発電し、電気をつくりモーターを回して走らせているのです。

 

2種類のEVを持つ意味

なぜ日産は、リーフ方式とノート方式の2種類のEVを持っているのでしょうか。1つの方式を開発したほうが、開発費は半分で済みますし開発スピードも速まるはずです。

 

それはEVの分野では、まだ世界的に「この方式が最も良い」という答えが出ていないからです。EVの原理自体はとても単純で、おもちゃのラジコンカーと同じです。電池を積んでモーターを回して走らせる、これだけです。

ですので、ベンチャー企業でも簡単にEVをつくることができます。

 

しかしEVはまだまだ、ハイブリッド車に勝てない部分が多いのです。EVはまだ開発余地があるのです。

 

そうなると、このような考えも出てくると思います。

「それならハイブリッド車を極めればいいのではないか。日産にもハイブリッド車があったはずだが」

確かに日産も、ハイブリッド車をつくっています。ところがEVには、ハイブリッド車にない魅力があるのです。日産はその魅力にかけて、わざわざ2種類のEVをつくりながら次世代のEVを開発しているのです。

 

ハイブリッド車にないEVの魅力とは

ハイブリッド車といえばトヨタの専売特許です。ハイブリッド機能を搭載したプリウスは自動車業界に革命を起こしました。ホンダもトヨタの次に高いハイブリッド技術を持っています。

 

ハイブリッドより全然単純

ハイブリッド車とても優れたシステムなのですが、構造が複雑という欠点があります。何しろガソリンエンジンと電気モーターの両方を積み、その両方を交代させながらクルマを走らせているのです。コンピューターで制御して絶妙なタイミングで切り替えなければなりません。

メルセデスベンツもポルシェもハイブリッド車を出していますが、いずれも「本命」にはなっていません。

 

その点、EVはリーフのように、電気ケーブルで充電するだけなので単純です。エンジンも要りません。

 

ノートeパワー方式でも、ガソリンエンジンは発電するだけ、電気モーターはクルマを走らせるだけと役割を決めているので、構造はハイブリッドよりははるかに単純です。

構造が単純だと、製造が簡単になるので価格を下げることができ、故障しにくいというメリットもあります。

 

自動運転車には電気制御が向いている

世界の自動車メーカーはいま、自動運転車の開発でもしのぎを削っています。自動運転技術には、道路状況を把握する大量のセンサーや無数の情報を瞬時に計算して判断するコンピューター、GPS機能、インターネットとの接続などが必要になります。

これらはすべて電気で動きます。

 

すなわち自動運転車は、絶対的に大量の電気が必要なクルマなのです。それなら走行に必要なエネルギー源も電気でそろえたほうが合理的です。

つまり、自動運転車はEVのほうが都合がいいのです。

 

ということはEVの技術を持ったメーカーが、自動運転車市場で勝者になれるのです。

 

EVを走らせている地域はクリーンがなる

EVはクリーンというイメージを持っている方が多いと思いますが、実は単純にそうとは言い切れない部分もあります。

EVのエネルギーである電気は、当然のことながら発電所でつくられます。発電所では、石炭、石油、液化天然ガスを燃やして電気をつくっています。発電所の周辺はまったくクリーンではないのです。

 

しかし中国の北京や上海のような急成長して急に自動車が増えた大都市では、ガソリンや軽油で走る自動車の排気ガスが社会問題になっています。

そこで「とりあえず大都市の空気をきれいにしよう」ということになるのです。EVは排気ガスを出さないので、地方の発電所でつくった電気でEVを大都市で走らせれば、大都市はクリーンになります。

また発電所も風力発電や太陽光発電に代わっていけばクリーンな環境を獲得できます。

 

まとめ~自動車大国ニッポンを堅持するために

EVならベンチャー企業でも参入できますし、自動運転車はIT企業の参入が目立ちます。日産の1兆円の投資は、「これからの自動車業界もうちの会社がリーダーになる」という意欲の表れのような気がします。自動車大国ニッポンを堅持するためにも、日本メーカーのEV開発に期待したいです。

 

【僕の経済ウォッチ】は、国内外の経済の動きを、僕なりに解釈してコメントするコラムです。日本経済新聞や東洋経済、プレジデントなどの経済記事を読み、その概要をお知らせし、僕の見解を添えています。日本の経済問題について、一緒に考えていきましょう。

 

資料

「日産、中国に1兆円投資 EV20車種以上投入」(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26517930V00C18A2MM0000/?nf=1

「ノートeパワー」(日産)

https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/note/performance.html

「新車販売台数」(日本自動車販売協会連合会)

http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking.html#

「リーフ」(日産)

https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf/charge.html

「火力発電の燃料」(関西電力)

http://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/thermal_power/fuel/index.html

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