法人

会社の「万が一」に備えながら節税する

大企業であれば、社長に万が一のことが生じても会社の経営は続きます。次期社長候補が何人もいるからです。

しかし中小企業やベンチャー企業ではそうはいきません。社長と会社は一心同体なので、社長が倒れることは会社が倒れることを意味します。

 

また社長が健在でも、規模が小さい会社は経済状況の変化に翻弄されやすいため、用心が欠かせません。

 

そこで中小企業やベンチャー企業の社長には、セーフティーネットを用意しておくことをおすすめします。

誰でもすぐに準備できるセーフティーネットは、次の3点です。

 

  • 法人契約の生命保険への加入
  • 倒産防止共済への加入
  • 小規模企業共済への加入

 

これらは法人税などの節税にもつながります。詳しく見ていきましょう。

 

法人契約の生命保険への加入

社長が法人契約の生命保険に加入する意義は、社長が死亡した場合、保険金が会社に入るということです。その保険金で会社に残った人が事業を継続できるというわけです。

役員など社長以外が加入することもできます。保険料は企業が負担します。

 

もちろん保険料という支出があるので利益を押し下げることになるのですが、法人契約の生命保険には「万が一の備え」だけではなく、掛金(保険料)の全額(または2分の1、または3分の1、または4分の1)を損金に計上できるというメリットがあります。

損金の額が増えると法人税は減ります。

 

それでは、

保険料を全額損金に計上できる生命保険

保険料の2分の1~4分の1を損金に計上できる生命保険

について解説します。

 

なぜ生命保険によって損金計上の割合が異なるのか

なぜ生命保険の種類によって損金計上の割合が異なるのかというと、生命保険の種類によって返戻率が異なるからです。

 

<返戻金の割合が異なるから>

返戻率とは、支払った保険料に対する返戻金の割合のことをいいます。返戻金とは契約中の生命保険を解約したときに戻ってくるお金のことです。返戻金は会社が受け取ります。

返戻率ゼロ、つまり返戻金がないものを、掛け捨て保険といいます。

 

<貯蓄性が高い生命保険の法人税を高くしたいから>

生命保険でありながら、支払った保険料が返戻金として戻ってくるなら、貯蓄をしているようなものです。税務署としては、貯蓄ならそこに法人税をかけたいわけです。

 

一方、返戻率が低い生命保険、つまり貯蓄性が低い生命保険は、セーフティーネットのコストと考えられるので、税務署としては法人税を低くしてもよいと考えるわけです。

 

生命保険の種類によって法人税の額を調整するために、保険料を損金に計上する割合を調整しているのです。

 

保険料を全額損金に計上できる生命保険とは

保険料を全額損金に計上できる生命保険のことを、全額損金定期保険といいます。

この生命保険を社長または役員などにかけることにより、保険料の全額を損金に計上できます。保険料という支出は増えますが、法人税を押し下げる効果が得られます。

 

<返戻率はおおむね50~90%>

「保険料の全額が法人税の損金に計上できるなら、絶対これに入ったほうがいい」と感じると思いますが、全額損金定期保険にはデメリットがあります。

それは返戻率が低いことなのです。加入者の年齢や男女で異なりますが、返戻率のピークは50~90%で、そのピークはおおむね加入から5~15年後に設定されています。

 

返戻率が最も高い場合でも50%しかない全額損金定期保険もあるのです。しかも返戻率は、最も高くなるピークを過ぎると減少に転じます。

 

<セーフティーネットのコストが0円になり収入増にも貢献>

全額損金定期保険を「お得」に活用するには、

  • ピーク返戻率70%以上の全額損金定期保険を選び
  • 返戻率が70%以上になった時点で解約する

ことです。

 

返戻率が70%以上になると、返戻金と法人税の減額分を足した「企業への収入効果」は、全額損金定期保険に入らない場合より大きくなります。

解約するまでの間の全額損金定期保険によって守られたコストがゼロになるだけでなく、会社の収入増にも貢献するというわけです。

 

ただこれはあくまで目安ですので、実際に全額損金定期保険に加入するときは、必ず保険代理店に綿密はシミュレーションをしてもらってください。

 

<全額損金定期保険のデメリット>

全額損金定期保険のデメリットは、解約したときの返戻金が法人税上の益金に計上されることです。益金が増えると法人税が増えます。

よって、社長としては解約するタイミングを見極めなければなりません。理想の解約タイミングは次の通りです。

 

  • 会社の経費支出(損金)が大きくなるとき
  • 大型投資をするとき
  • 赤字になりそうなとき

 

「会社の経費支出(損金)が大きくなるとき」や「大型投資をするとき」は、現金を持っていたほうがいいので、解約して現金を手に入れるタイミングに適しています。法人税のアップを相殺することもできます。

 

また企業が赤字だと銀行は融資してくれませんので、融資が必要になり、なおかつ「赤字になりそうなとき」は、全額損金定期保険を解約して黒字にしたほうがいいでしょう。

 

保険料の2分の1~4分の1を損金に計上できる生命保険とは

企業が社長や役員にかける生命保険が、長期標準定期保険または逓増(ていぞう)定期保険の場合、その保険料の全額を損金に計上することはできません。

損金に計上できるのは、保険料の2分1または3分の1または4分の1です。

 

<そもそも定期保険とは>

長期標準定期保険は、定期保険の一種です。定期保険とは、一定期間しか保障されない生命保険のことで、例えば10年満期、20年満期といった契約になります。

 

<長期標準定期保険とは>

長期標準定期保険の「長期」とは、満期までの期間が特に長い、という意味です。

「長期」の具体的な定義は、

  • 保険期間の満期時70歳を超えている
  • 「加入年齢+保険期間満期までの年数×2」が105を超えている

の2点です。

 

例えば31歳の社長が71歳に満期(40年満期)を迎える定期保険をかけた場合、

31+40×2=111

となり、105を超えているのでこの保険は長期標準定期保険となります。

 

また長期標準定期保険には、満期時に保険会社から支払われる満期保険金の仕組みはありません。ただ、途中で解約した場合は返戻金を受け取ることができます。

 

<逓増定期保険とは>

逓増定期保険とは、万が一のときに支払われる保険金の額が、保険期間中に増額する定期保険のことをいいます。

例えば、加入当初は死亡時の保険金が5,000万円だったものが、しばらくすると2億5千万円になったりします。保険金の増額は、最大5倍までとなっています。

 

<損金計上が2分の1になるケース、3分の1になるケース、4分の1になるケースとは>

長期平準定期保険と逓増定期保険の保険料の損金に計上できる割合は次の通りです。

 

・「保険期間満期時の年齢が70歳超」で「加入時の年齢+保険期間(年)×2=105超」の場合(長期平準定期保険の場合)、保険料の2分の1を損金計上できる

 

・「逓増定期保険」で「保険期間満期時の年齢が45歳超」の場合、保険料の2分の1を損金計上できる

 

・「逓増定期保険」で「保険期間満期時の年齢が70歳超」で「加入時の年齢+保険期間(年)×2=95超」の場合、保険料の3分の1を損金計上できる

 

・「逓増定期保険」で「保険期間満期時の年齢が80歳超」で「加入時の年齢+保険期間(年)×2=120超」の場合、保険料の4分の1を損金計上できる

 

倒産防止共済への加入

「倒産防止共済」の正式名称は中小企業倒産防止共済制度といい、経営セーフティ共済という別名も持っています。

運営しているのは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称、中小機構)です。

倒産防止共済に加入していると、中小企業の取引先が倒産などして資金繰りに困ったときに、最大8,000万円までお金を貸してもらえます。

 

取引先が倒産したときにお金を貸してくれる

「取引先の倒産など」とは、取引先が次のような状態に陥ったときのことをいいます。

  • 取引停止処分
  • 私的整理
  • 破産手続開始の申し立て
  • 災害による不渡り
  • 特定非常災害による支払い不能

 

取引先が上記の状態になった場合、共済から無担保、無保証人でお金を借りることができます。

貸付金額の上限は、次の2つのいずれか少ないほうです。

  • 回収困難となった売掛金債権の額
  • 倒産防止共済に支払った毎月の掛金(保険料のようなもの)の総額の10倍(最高8,000万円)

 

加入条件と掛金

倒産防止共済に加入できるのは、中小企業です。

毎月支払う掛金(保険料のようなもの)は、月額5千~20万円まで自由に選べます。

 

掛金は全額戻ってくる上に節税ができる

この掛金は、40カ月以上納めれば、解約したときに掛金は全額戻ってきます。

「掛金が全額戻ってきても、取引先の倒産などが起きなければプラスマイナスゼロじゃないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

倒産防止共済の掛金は所得税の計算で経費に計上できるので、節税効果が発生するのです。つまりこういうことです。

 

  • 40カ月以上掛金を支払えば、少なくとも損はしない
  • 節税効果を考えれば完全に「得」をする

 

倒産防止共済は、利息のない貯金のようなものですが、節税効果があるので差し引きプラスになる、と考えていいでしょう。

 

小規模企業共済への加入

小規模企業共済は、中小企業の社長や役員たちの退職金のような制度です。

中小機構が、個人事業主や中小企業経営者向けに、退職金制度のような共済をつくったのです。

 

これは社長個人のセーフティーネットといえるでしょう。もちろん節税効果もあります。

 

退職金を自分でつくる、というイメージ

小規模企業共済の仕組みは単純で、毎月掛金を支払い、将来「退職金」という形で現金を受け取ります。

月々の掛金は1,000~70,000円と、選択の幅がかなり広く設定されています。

自分で自分の退職金をつくるイメージです。

 

社長が共済金をもらえる

小規模企業共済の社長が加入すると、次の条件を満たしたときに共済金(退職金のようなもの)をもらうことができます。

 

A:企業が解散したとき

B:病気などにより社長を辞めたとき

C:65歳以上で社長を辞めたとき

 

例えば毎月の掛金を1万円にして5年間加入すると、掛金(支払った額)の合計は60万円になります。

Aの場合、共済金は621,400円となります。Bの場合は614,600円となります。

 

支払った金額より多くお金(共済金)をもらうことができます。

 

社長の所得税を減らす効果がある

小規模企業共済に社長が加入すると、社長の所得税の額を計算するときに、社長の所得から掛金の額を控除してもらえます。所得税が減る、というわけです。

ただ、企業の損金に計上されるわけではありません。

 

まとめ~お得な条件で安心を買おう

社長のセーフティーネットに節税効果があるのは、国の政策です。

国は中小企業やベンチャー企業を支援する目的でセーフティーネットのコストにかける税金を低くしているのです。事業が軌道に乗ったら、守りについても考え始めましょう。

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