中小企業の社長が「税金の事務処理が苦手」でも問題ありませんが、「税金の知識がない」のは困ります。
税金の知識がないと節税ができないからです。
会社の利益を上げるには、儲けることと支出を減らすことの2つがあります。ところが起業したばかりの社長は、儲けることに集中しすぎて、支出が「ダダ漏れ」状態になっていることがあります。
節税できるのに節税しないことは、無駄な支出の代表です。
本業で利益を10万円増やすことも、10万円節税することも、企業への貢献度は同じです。
中小企業の社長が、節税業務を税理士や経理担当者に丸投げするのは危険です。最も効果的な節税対策を打ち出すには、社長自身が税金の知識を持ち、税理士や経理担当者に「節税指示」を出さなければなりません。
社長は少なくとも、次の9種類の税金について知っておきましょう。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 地方法人特別税
- 消費税
- 固定資産税
- 自動車に関する税
- 印紙税
- 登録免許税
この記事では9種類の税について、概略を押さえておきます。
法人税、法人住民税、法人事業税については、別の記事で詳しく解説します。
法人税
法人税は、企業が事業活動によって得た所得に対して課せられる税金です。
サラリーマンに所得税が課せられるように、企業に法人税が課せられるのです。
法人税の性質
法人税には、次の3つの性質があります。
- 申告納税方式
- 国税
- 直接税
中でも法人税が申告納税方式であることは、注意が必要です。
<法人税は申告納税方式【重要】>
税金の支払い方法は、申告納税方式と賦課課税方式の2つがありますが、法人税は申告納税方式で支払います。
申告納税方式とは、納税者(企業)が自分たちで税金の額を計算して、税務署に「この金額を税金として支払います」と申告し、現金を支払う仕組みです。
「自分たちで税金の額を計算していいの?」と感じると思います。自分たちで計算すればいくらでも不正ができてしまいそうな気がします。
そこで税制度では、不正を予防する強力な措置が取られています。
まずなんといっても税務調査です。税務署の職員が企業に立ち入り、帳簿類をすべて確認するのです。最長7年前にさかのぼって調べられます。
税務調査で売り上げや経費などの計算が間違っていたり、ごまかしていたりしたことが発覚すると、本来の税金額より多い税金が課されます。
このペナルティは、間違いやごまかしが悪質なほど高額になり、納税者に「間違ったりごまかしたりすることは割に合わない」と感じさせる効果があります。
悪意がある場合はもちろんですが、税務署には「うっかりしていました」も通じません。
しかも税務署は、節税方法を教えてくれません。企業の経理担当者が税務署に「こういう場合は節税になりますか?」と尋ねれば回答してくれますが、企業の側で節税対策を知らなければ、税務署からは決して「こうすればもう少し法人税が減りますよ」とはアドバイスしてくれません。
つまり申告納税方式には次の2つの恐さがあるのです。
- 間違った申告をするとペナルティを課せられる(うっかりミスでもペナルティあり)
- 節税方法を知っておかないと一切節税できない(自分たちで調べて申告するしかない)
だから社長が税金について学ばなければならないのです。
ちなみに賦課(ふか)課税方式は、国や地方自治体が税金を計算し、それを納税者に知らせ税金を支払わせる仕組みです。固定資産税や自動車税は、通知が来るのを待って支払うので、賦課課税方式になります。
<法人税は国税>
税金には国に納める税金と、都道府県市区町村に納める地方税に分かれ、法人税は国に納める国税です。
<法人税は直接税>
税金には直接税と間接税があります。法人税は直接税です。
直接税とは、税金を税務署に支払う者(納税者)と税金のお金を負担する者(担税者)が同じ場合の税のことです。「者」といっていますが、税金用語では「ヒト」だけでなく「法人」も「者」に該当します。
法人税は、企業がお金を負担して、企業が税務署に税金を支払うので、直接税です。
代表的な間接税は消費税です。例えばコンビニでコーヒーを買うと、客はコーヒー代に加えて消費税をコンビニに支払いますが、これはコンビニが一時的に消費税を預かっているだけなのです。コンビニは客から預かった消費税を税務署に納めます。
消費税では、コンビニが納税者で、コーヒーを買った客が担税者と呼ばれます。
ここが難しい「所得と利益」「益金と売上高」「損金と費用・損失」の違い
法人税の計算式は、単純に解説すると「所得×税率」となります。ところがこの「所得」の考え方が、とてもややこしいのです。
<とても似ているが微妙に異なる2つの計算式>
企業が儲けた金額は、法人税の計算でも使いますし、企業会計でも使います。
ところがこの「儲け」の算出方法が、法人税と企業会計で、微妙に異なるのです。
次の2つの計算式を見てください。
法人税で使う計算式:所得=益金-損金
企業会計で使う計算式:利益=売上高-費用・損失
この2つの計算式は、とてもよく似ていますよね。
「所得と利益」は、どちらも「儲け」と言い表したくなりますが、別々に考えないとならないのです。
「益金と売上高」も「商品を売って顧客からいただいたお金」という意味では同じですし、「損金と費用・損失」も似たような意味です。
しかも「所得と利益」「益金と売上高」「損金と費用・損失」は、実際に計算してみると、似たような金額になるのです。
しかしこれらは微妙に異なるのです。
<無償プレゼントの場合「売上高は0円」「益金は100円」>
例えば企業が自社製品を100円で売った場合、法人税を計算するときの益金にも、企業会計上の売上高にも、100円を計上します。
しかし企業がキャンペーンのために、本来は100円の自社製品を無償で提供したとします。無償なので当然、売上高にはなりません。よって、企業会計上の売上高は0円として計算します。
しかし法人税では、「無償での商品提供は、意図的に益金を減らす手法につながるので認めない」となり、益金に100円計上しなければならないのです。益金の金額が増えると所得の金額も増え、法人税も増えます。
<目的が異なるので計算方法も異なる>
法人税の所得と、企業会計上の利益が微妙に異なるのは、所得と利益を算出する目的が異なるからです。
法人税では、意図的に税金の額を減らそうとする操作は許さない、という考え方があります。例えば、「法人税を払うくらいなら、接待交際費をたくさん使ってしまおう」という行為は許されず、ある程度の金額しか接待交際費として認めてもらえません。
一方、企業会計の目的は、企業のビジネス状況を把握することです。銀行の融資も企業会計を見て判断されます。
よって、例えばある企業が接待交際費をたくさん使って手元の現金が減っていたら、銀行は本当の手元の現金の額を知りたいわけです。または、無償プレゼントキャンペーンを行って売上高が減っていたら、減った結果、売上高がいくらになったのかを知りたいわけです。
よって、法人税の計算と企業会計の計算では、
法人税で使う計算式:所得=益金-損金
企業会計で使う計算式:利益=売上高-費用・損失
という似て非なる計算式を使っているのです。
法人税の計算方法
法人税の計算では、まずは、
所得×税率
を押さえておいてください。
税率は、
- 資本金1億円超の企業:23.4%
- 資本金1億円以下かつ所得800万円以下:15.0%
- 資本金1億円以下かつ所得800万円超:800万円まで15.0%、それを超える分23.4%
となっています。
例えば、A社(資本金1憶1,000万円)とB社(資本金9,000万円)の所得が、どちらも900万円だったとします。すると、法人税の金額は以下のようになります。
法人税額 | 計算式 | |
A社(資本金1憶1,000万円) | 2,106,000円 | 900万円×23.4% |
B社(資本金9,000万円) | 1,434,000円 | 800万円×15.0%+100万円×23.4% |
A社とB社は、所得が同じでも資本金が違うために、672,000万円(2,106,000円-1,434,000円)も法人税が変わってくるのです。
法人住民税
法人住民税は、都道府県と市区町村に支払う税です。
法人住民税の額は、
- 均等割
- 法人税割
の2つを合計した金額になります。
法人住民税=均等割+法人税割
という計算式になります。
法人住民税は、詳しくは法人都道府県民税と法人市町村民税に分かれるのですが、ここでは両者を合わせた法人住民税で解説しています。
さらにいえば、東京23区には法人区民税というものはなく、法人都民税に組み込まれています。こちらも法人住民税として見ていきます。
均等割
均等割は法人住民税の一部で、企業が稼いだ額に関係なく支払う分です。
均等割の計算方法は都道府県によって異なります。東京都ですと、資本金と従業員数によって細かく分かれています。その一部を紹介します。
・資本金1,000万円以下、従業員50人以下の企業:70,000円
(資本金1,000万~50億円の間の数値は省略します)
・資本金50億円超、従業員50人超の企業:3,800,000円
各項目の右側の金額が法人住民税の均等割分の額となります。
この金額は企業の資本金によっては上下しますが、企業の所得によっては変化しません。
法人税割
法人税割も都道府県ごとにルールが異なるので、東京都のものを紹介します。
法人税割の金額は、
法人税割の額=法人税額×法人税割の税率
で算出します。
先に「法人税」の額を算出してから、その「法人税」の額に法人税割用の税率をかけて、「法人住民税」の法人税割の金額を出します。
<東京都の法人住民税の法人税割の計算式>
企業の資本金 | 法人税割の税率 |
資本金1億円超の企業 | 16.3% |
資本金1億円以下
法人税額1千万円超 |
16.3% |
資本金1億円以下
法人税額1千万円以下 |
12.9% |
法人事業税
法人事業税は、都道府県に支払う地方税です。
法人事業税の額は、
法人事業税の額=所得×税率
で算出します。
東京都の場合、税率は資本金や所得によって異なり、3.4~7.18%となっています。
地方法人特別税
地方法人特別税は、「地方」とついていますが、国税です。
国が企業から地方法人特別税を集め、その後国が地方自治体に配分する税金です。
地方法人特別税の額は、
地方法人特別税=法人事業税の額×税率
で算出します。
東京都の場合、税率は43.2%となっています。
所得に税率をかけているのではなく、法人事業税の額に税率をかけています。
消費税
企業が顧客に商品やサービスを売るとき、商品価格に消費税をプラスして販売しています。
企業が顧客から受け取る消費税は、「預かっている」状態になります。企業は顧客から預かった消費税は、税務署に渡さなければなりません。
預かった消費税から支払った消費税を差し引く
ただ、企業も他社から商品やサービスを仕入れたり買ったりしたとき、消費税を支払っています。
そのため、企業が税務署に支払う消費税は、顧客から預かった消費税から、自社が支払った消費税を差し引いて支払えばいいのです。
計算式はこうなります。
企業が税務署に支払う消費税の額=
顧客から預かった消費税(売上高にかかる消費税額)-
仕入で支払った消費税(仕入額などにかかる消費税額)
シミュレーションしてみよう
この計算式を使って、消費税の計算をシミュレーションしてみましょう。
ある企業の売上額が20,000,000円、仕入額が10,000,000円だったとします。
この売上額には消費税8%が含まれているので、20,000,000円の内訳はこうなります。
売上額20,000,000円=税別価格18,518,519円+消費税1,481,481円
つまり、顧客から預かった消費税は1,481,481円となります。
一方、この仕入額には消費税8%が含まれているので、10,000,000円の内訳はこうなります。
仕入額10,000,000円=税別価格9,259,259円+消費税740,741円
つまり、仕入のときに支払った消費税は740,741円となります。
よって、この企業が税務署に支払う消費税額は、740,740円(1,481,481円-740,741円)となります。
消費税8%は、国に納める6.3%と地方に納める1.7%に分かれますが、ここでは両者を合わせて計算しています。
消費税を支払わなくてよい企業
消費税は売上高が1,000万円以下の場合は免除されます。この場合、企業が顧客から消費税をもらったとしても、それを税務署に納める必要はありません。
固定資産税
企業が土地や建物を保有していれば、固定資産税を支払います。
個人でも住宅を所有していると固定資産税がかかりますが、企業の場合、土地と建物のほかに、事業用の償却資産にも課せられます。つまり企業の場合、OA機器や機械設備、看板などにも固定資産税がかかるのです。
自動車に関する税
地方の中小企業が営業に力を入れようとすると、どうしても自動車が必要になります。しかし起業間もない場合、自動車の価格だけでなく、自動車関連の税金がかなりかかることを承知しておいてください。
自動車関連の税には、
- 自動車税(軽自動車以外の場合は軽自動車税)
- 自動車重量税
- 自動車所得税
- 消費税
があります。
営業車を確保するには、所有だけでなくリースやレンタルなども視野に入れたほうがいいでしょう。
印紙税
印紙税は契約書や領収書を発行するときに発生します。
契約書などに張り付ける印紙を購入することで印紙税を納めたことになります。
印紙税の額は細かく定められています。
例えば不動産譲渡の契約書には、契約金額が1万円以上10万円以下の場合、200円の印紙を貼ればいいのですが、契約金額が50億円を超えると60万円分の印紙を貼る必要があります。
登録免許税
登録免許税は、会社や不動産を登記した時にかかります。
土地を買って所有権の移転を登記するときの登録免許税の額は、
登録免許税の額=土地の価格×20/1,000
で算出します。
株式会社の設立登記の登録免許税の額は、
登録免許税の額=資本金×7/1,000
まとめ~ほんのさわりです
ここで紹介した税金の知識は、ほんのさわり部分になります。しかしこの部分をしっかり押さえておかないと、せっかくいい節税情報を入手しても、自社に当てはまるかどうか判断がつきません。
税金を安くすれば、その分を社員に還元することもできますし、投資に回すこともできます。内部留保に積み上げることもできます。
経営者となった以上、税金の知識は頭に入れておきましょう。