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法人税の先延ばし策が会社を救うかもしれない

「法人税の先延ばし策」と聞くと、脱税の一種のように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。合法的な手段です。

また「支払うべき法人税が消える」というわけでもありません。

 

法人税の先延ばしは、本来は今年支払わなければならない税金を、翌年以降に持ち越す手法です。いつかは支払わなければなりません。

 

ここまで説明すると「借金の支払いを先延ばしするようなものか」と感じるかもしれませんが、それとも異なります。法人税を先延ばしても、利子がかからないからです。

中小企業やベンチャー企業の社長は、万が一の事態に備えて、法人税の先延ばし策を覚えておく必要があります。

 

なぜなら法人税の先延ばし策は、最後の手段の「手前にある手段」だからです。

会社の経営が少し傾いたときに、法人税の先延ばし策を使ってしのぐことができれば、最後の手段を温存しておけるのです。

 

法人税の先延ばしを考えるときとは

どれだけ上手にビジネスを進めていても、長く会社を経営していると必ず不可抗力という「事故」に遭います。もう10年が経過するので記憶が薄れている方もいると思いますが、2008年のリーマンショックはまさに「事故」でした。アメリカの経済問題が日本に飛び火して多くの国内優良企業が大打撃を被りました。

複数のエコノミストは、リーマンショック級の大事故は、いつ来るか分からないが必ず来る、と警告しています。

 

社長は常に「万が一のときのカード」を持っておかなければなりません。

法人税の先延ばし策もそのカードの1枚なのですが、どのようなときにこのカードを切ったらいいのでしょうか。

 

急に儲からなくなったとき

法人税の先延ばし策を発動するのは、会社が急に儲からなくなったときです。

売上が落ちて利益が減っているときに、そのうえ法人税まで払うことになったら現金が底をつき会社は倒産してしまいます。

社長が「来年は厳しいな」と感じたら、自社の経理責任者と税理士に相談し、法人税の先延ばし策に取りかかってください。

理想は2~3年前から経営リスクを察知して準備に取り掛かることです。

 

儲かっているけど現金が入ってこないとき

企業には黒字倒産や連鎖倒産があります。

良いビジネスをやっている、良い商品を提供し続けている、客もたくさんいる、売上も立っている、なのに掛売金の回収が滞り現金が足りなくなり、手形や小切手が不渡りになり、金融機関からの融資もストップして倒産することがあります。

 

社長は、自分の会社が属している業界だけをウォッチしていればいいわけではありません。顧客が属している業界や、顧客の顧客の業界についても熟知しておかないと、いつなんどき現金の流れが滞るか分かりません。

 

また、儲かっているときだからこそ、じっくり法人税の先延ばし策を検討できるというものです。

 

急に儲かったとき

会社が急に儲かった年も、法人税の先延ばし策を検討しなければなりません。なぜなら、その年の儲けはまぐれかもしれないからです。

翌年に通常通りの売上に戻れば幸運なほうで、爆発的なヒット商品は、「売上の瞬発力」はありますが「売上の持続力」は小さいのが普通です。

もし急に儲かった反動で翌年の売上が激減したら、儲かった年の多額の法人税がボディブローのように効いてくるでしょう。

 

よって、急に儲かった年の利益は、少しの間、内部留保しておきたいものです。

そのためには、儲かった年の法人税の支払いを少しでも先延ばししたほうが得策なのです。

 

急に儲かると法人税の額が急増してしまいますので、そんなとき法人税の先延ばし策を発動し現金を確保しておきます。売上が落ち着き成長率が安定飛行になったら、ゆっくりと先延ばしした法人税を支払っていきましょう。

 

「儲かっているときこそ強い危機感を」という意識は、すべての優秀な社長が持っています。

 

法人税先延ばし策には4つの方法がある

法人税の先延ばし策には、次の4つの方法があります。

 

  • 経費を前倒して計上する
  • 売上計上基準を遅くする
  • 倒産防止共済に加入する
  • 法人契約の生命保険に加入する

1つずつ見ていきましょう。

 

方法1:経費を前倒して計上する

会社の事務所の家賃は、ほとんどは前払いになっているはずです。2月分の家賃を1月に支払う、といったことは珍しくありません。

この場合、家賃としての費用は、2月になります。現金は1月に大家に支払っているのに2月の費用としなければならないのです。

 

例えば3月決算の会社ですと、3月に現金で支払った家賃は3月に計上できず4月計上となるため、その分の経費は今期に計上できず次の期に持ち越すことになります。

3月に会社の現金が減っているのに、その分の節税効果を今期に得ることができないのです。

 

もちろん、その減税効果は次の決算年度に持ち越されるので、会社は法人税の支払いにおいて「損」はしません。会社を2年以上継続すれば、会社事務所の家賃前払いの減税効果の先送りはなくなります。

 

しかし、節税効果は早く取り込んだほうがいいでしょう。

ある条件を満たすと、来期1年分の家賃支払いによる減税効果を、今期に得ることができるのです。

ある条件とは「短期前払費用として損金算入ができる場合」に該当するケースです。

 

「短期前払費用として損金算入ができる場合」とは

「短期前払費用として損金算入ができる場合」は法人税の仕組みの名称としては長いのですが、このまま覚えておいてください。

これは「1年以内という短期の支払いであれば、それを前払いした場合、現金を支払った決算期に損金(経費)として算入してもよい」という意味です。

 

例えば、3月決算の企業が2018年3月に、2018年4月~2019年3月までの会社事務所の家賃を一括払いしたときに、2018年3月期決算でその家賃金額全額を経費(損金)に算入できるのです。

 

2018年3月期に利益が急激に上昇したときに、この「短期前払費用としての損金算入」を使うと、本来は2019年3月期に得られる減税効果を、2018年3月期に得ることができ、法人税の急激な増額を抑えることができます。

 

例えば毎月の家賃が30万円の場合、30万円×12カ月=360万円の損金(経費)分の節税効果を「先食い」できます。

 

ただ「短期前払費用としての損金算入」を使うには、次の条件を満たす必要があります。

A:現金を支払った月から1年以内にサービスを受けるものに限る

B:処理が継続すること

C:継続した契約であること

 

Aは、例えば2018年2月に、2018年4月~2019年3月分の家賃を一括支払いしても、「短期前払費用としての損金算入」は認められないことを意味しています。1年超先のサービス分の支払いが含まれているからです。

 

そして特にBとCが重要で、ある年度だけ3月に翌年度1年分の家賃を支払うことは認められません。つまり2018年3月に2018年4月~2019年3月分の家賃を支払ったら、2019年3月にも2019年4月~2020年3月分の家賃を支払わなければならないということです。そのような契約を大家と結ばなければならないのです。

 

そのため、次のような状況が発生します。

・来期分の1年分の家賃相当額を、現金として毎期末に用意しなければならない

・2018年3月期決算で2019年3月期決算分の節税を先食いしたら、2019年3月期には2019年3月期分の節税は得られず、2020年3月期分の節税を先食いすることになる。つまり2年目以降は節税効果はプラスマイナスゼロになる

 

「短期前払費用としての損金算入」は1回だけしか使えませんので、社長はこの「伝家の宝刀」をどこで使うかを見極めなければなりません。

 

方法2:売上計上基準を遅くする

次に紹介する「売上計上基準を遅くする」方法での法人税の先延ばし策も、1回だけしか使えません。

 

まず、売上計上の原則論を説明します。

法人税法上では、商品の販売の売上計上は、引き渡した時期に行わなければなりません。掛売りをしている場合は顧客に先に商品を渡し、代金の回収は1カ月後や2カ月後になってしまいます。それにも関わらず、帳簿上は顧客に商品を渡したタイミングで売上として計上しなければならないのです。

 

3月決算の企業において、2018年3月に顧客に商品を渡し、2018年5月に代金を回収するとします。2018年3月期の法人税では、実際は現金が手元に入っていない分の売上分の法人税も支払わなければならないということです。

 

仮に何かのトラブルが起きて2018年5月にその代金を回収できなければ、別の経理処理をしなければならず、2018年3月期の法人税で多く支払った分を取り戻すのはとても大変です。

 

そこで、「顧客の商品を引き渡す時期」をずらすことで、こうした事態を回避することができるのです。

 

「顧客に商品を引き渡す時期」は、商品を出荷した日、商品を検収した日、顧客が商品の使用を開始した日など、あらゆるタイミングが想定されます。

このうちどれを「顧客に商品を引き渡す時期」とするかは、会社の裁量に任されています。

 

例えば、これらの日にちが次の通りだったとします。

  • 商品を出荷する日:月末の前日(27日または28日または29日または30日)
  • 商品を検収する日:月末の日(28日または29日または30日または31日)
  • 顧客が商品の使用を開始する日:月初の翌日(2日)

このうち、どれを「顧客に商品を引き渡す時期」にするかは、企業の自由です。

 

それまで「顧客に商品を引き渡す時期」を「商品を出荷する日(月末の前日)」にしていた企業は、2018年3月の商品引き渡しは3月30日となり、この売上は2018年3月期決算に計上しなければなりません。現金が入ってくるのは2019年3月期になってしまうのに、です。

 

それで「顧客に商品を引き渡す時期」を「顧客が商品の使用を開始する日(月初の翌日)」に変更すれば、商品引き渡しは4月2日になり、その売り上げは2019年3月期決算に計上できます。

つまりこの売上金額に対する法人税を、翌年に先送りできるわけです。

 

方法3:倒産防止共済に加入する

「倒産防止共済」の正式名称は中小企業倒産防止共済制度といい、経営セーフティ共済という別名も持っています。

運営しているのは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称、中小機構)です。

倒産防止共済に加入していると、中小企業の取引先が倒産などして資金繰りに困ったときに、最大8,000万円までお金を貸してもらえます。

 

これは正確には法人税の先延ばし策ではないのですが、似たような効果が得られるので紹介します。

 

取引先が倒産したときにお金を貸してくれる

「取引先の倒産など」とは、取引先が次のような状態に陥ったときのことをいいます。

  • 取引停止処分
  • 私的整理
  • 破産手続開始の申し立て
  • 災害による不渡り
  • 特定非常災害による支払い不能

 

取引先が上記の状態になった場合、共済から無担保、無保証人でお金を借りることができます。

貸付金額の上限は、次の2つのいずれか少ないほうです。

  • 回収困難となった売掛金債権の額
  • 倒産防止共済に支払った毎月の掛金(保険料のようなもの)の総額の10倍(最高8,000万円)

 

加入条件と掛金

倒産防止共済に加入できるのは、中小企業です。

毎月支払う掛金(保険料のようなもの)は、月額5千~20万円まで自由に選べます。

 

掛金は全額戻ってくる上に節税ができる

この掛金は、40カ月以上納めれば、解約したときに掛金は全額戻ってきます。

「掛金が全額戻ってきても、制度を利用しなかったらプラスマイナスゼロじゃないか」ということもありません。

倒産防止共済の掛金は所得税の計算で経費に計上できるので、節税効果が発生するのです。つまりこういうことです。

 

  • 40カ月以上掛金を支払えば、少なくとも損はしない
  • 節税効果を考えれば完全に「得」をする

 

倒産防止共済は、利息のない貯金のようなものですが、節税効果があるので差し引きプラスになる、と考えていいでしょう。

 

方法4:法人契約の生命保険に加入する

社長が法人契約の生命保険に加入する意義は、社長が会社を残して死亡した場合、保険金が会社に入るということです。その保険金で会社に残った人が事業を継続できるというわけです。

 

メリットがこれだけでは、保険料という支出があるので利益を押し下げることになります。しかし法人契約の生命保険は、掛金(保険料)の全額~3分の1を損金に計上できるのです。

 

つまり法人契約の生命保険は、社長が死亡したときに一定額の資金が会社に入金されるというセーフティネットのサービスを受けながら、節税効果を得られるというわけです。

 

これも純粋な法人税の先延ばし策ではありませんが、法人税の支払いタイミングをずらす方法として紹介しておきました。

 

まとめ~伝家の宝刀は最後まで抜かない方がよいのですが

法人税の先延ばし策は、なるべくなら使わないほうがよいのは言うまでもありません。また、2期連続、3期連続で業績が悪化した場合、この法人税の先延ばし策は「焼け石に水」になってしまいます。

しかし、いざというときのための切り札が多ければ多いほど、社長は大胆な事業展開や投資を実行できます。

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