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「法人税か自分の所得税か」どうする社長

必死に資金をかき集めて、なんとか株式会社を立ち上げ、次第にビジネスが軌道にのり、社員も定着し始めたころ、社長は「そろそろ自分の報酬を増やしてもいいよな」と考えることでしょう。

「せめて脱サラした時点の年収よりは多くもらいたい」そう考えるのは当然の心理です。

 

しかし新人社長が自身の報酬を増やそうと思ったとき、必ず知り合いのベテラン社長や税理士たちに相談してください。

なぜなら、自分で会社を立ち上げ、いまも社長をしているオーナー社長にとって、会社の税金を減らすか、自分の税金を減らすかは、永遠の悩みだからです。

 

会社の法人税と社長の所得税は、片方を減らせば他方が増える関係にあります。

儲かっているから社長の報酬を増やす、という単純な考え方は、会社に不要なダメージを与えかねません。

オーナー社長としては「法人税と所得税を足した金額が最小になる社長報酬」を探りたいところです。

 
 

会社の税金と社長の税金とは

社長の報酬を上げると会社の税金が安くなり、社長個人の税金が高くなることは、直感的に理解できると思います。

では、そのメカニズムはどうなっているのでしょうか。

会社の税金と社長の個人としての税金について確認しておきましょう。

 

税金の種類

会社や個人に関わる税金は細かく見ればたくさんありますが、社長の報酬に関係するのは、以下の5つの税金です。

 

<会社の税金>

A:法人税

B:法人住民税

C:法人事業税

 

<社長の税金>

D:所得税

E:住民税

 

社長の報酬を増やすとその分会社の利益が減るので、法人税、法人住民税、法人事業税はすべて減ります。よって、社長の報酬は会社にとって節税効果を生む支出といえます。

しかしそれでは、社長の所得税と住民税が増えてしまいます。社長の報酬は、社長個人への増税圧力になります。

 

なぜこのような現象が起きるのかというと、

  • それぞれの税金の計算方法に必ず社長の報酬が関わってくるから
  • 社長の報酬額の影響力は、会社の規模が小さいほども大きくなるから

という2つの理由があります。

 

それぞれの税金の計算式

上記で紹介した税金のそれぞれの計算式を見てみます。

 

まず<会社の税金>の計算式は次の通りです。

A:法人税=所得(益金-損金)×税率

B:法人住民税=法人税割(法人税×税率)+均等割

C:法人事業税=所得(益金-損金)×税率

 

社長の報酬がこの計算式のどこに入るかというと「損金」です。社長の報酬が大きくなれば、損金が大きくなるのです。

Aの法人税は、損金の額が大きくなるほど「損金×税率」が大きくなるので、減額されます。

損金の額が大きくなると法人税が小さくなるので、Bの「法人税×税率」が小さくなって法人住民税も減ります。

Cの法人事業税も損金が大きくなれば減る計算式になっています。

 

<社長の税金>の計算式は次の通りです。

D:所得税=所得(報酬-控除)×税率-税額控除額

E:住民税=所得(報酬-控除)×税率-調整控除額+均等割額

社長の報酬が大きくなると、Dの所得税の「報酬×税率」が大きくなるので、所得税も大きくなります。Eの住民税にも「報酬×税率」があるので、社長の報酬が大きくなると住民税も大きくなります。

 

会社の儲けが大きくなれば社長報酬の影響力は弱まる

社長の報酬が会社の税金に影響を与えるのは、会社の売上や儲けが小さいときです。

 

法人税を算出する計算式はこうでした。

A:法人税=所得(益金-損金)×税率

 

この計算式で、益金の数値を限りなく大きくしていくと、損金が無視できるくらい小さくなります。

益金に含まれるのは、会社の売上高です。損金に含まれるのは、原材料費や経費や社長の報酬です。

よって、会社の売上高を限りなく大きくすれば、社長の報酬が法人税に与える影響は小さくなります。

 

例えばトヨタ自動車の豊田章男社長の報酬は3億2,200万円です。日産のカルロス・ゴーン氏の報酬は、日産から10億円を受け取り、さらにルノーというフランスの自動車メーカーからも8億円の報酬を得ています。

社長が億円単位で報酬をもらっても問題が生じないのは、売上高がけた違いに多いので「大勢に影響が出ない」ためです。

 

シミュレーションは役に立つのか

「会社の税金+社長個人の税金」を最小限にする社長の報酬は、簡単には算出できません。社長の報酬をいくらにすれば、会社も社長本人も満足できるWin=Winな関係を築けるのかは、かなり綿密なシミュレーションをしなければならず、それは税理士でも苦労するでしょう。

 

不確定要素があって最適解を出すことは困難

なぜシミュレーションが困難になるのかというと、会社の税金と社長個人の税金には、控除と税率という不確定要素があるからです。控除の数値と税率の数値は、社長報酬や売上高、社長の家族構成や会社の費用などが動けば大幅に変わります。

 

そこで、ある税理士事務所が行ったシミュレーションを紹介します。これは不確定要素をある程度無視して計算しています。よって、以下に紹介する金額は「必ずこうなる」わけではありません。「大体の目安」として押さえておいてください。

 

<シミュレーション1>

会社の利益500万円をすべて社長報酬に上乗せした場合

会社の税金:-110万円(つまり110万円の節税効果があったということです)

社長の税金:+52万円(つまり社長の税金が52万円増えたということです)

 

<シミュレーション2>

会社の利益500万円のうち、社長報酬に250万円上乗せし、残りの250蔓延を会社の内部留保に回したとき

会社の税金:+55万円(会社の税金が55万円増)

社長の税金:+24万円(社長の税金が24万円増)

 

<シムレーション3>

会社の利益500万円の全額を会社の内部留保に回し、社長報酬を増やさなかった場合

会社の税金:+110万円(会社の税金が11万円増)

社長の税金:±0円(社長の税金への影響はゼロ)

 

この3つのシミュレーションで、最も「会社の税金+社長個人の税金」の額が小さいのは、<シムレーション1>で、-58万円でした。

 

繰り返しますが、これはあくまで机上の空論です。「わが社の場合」の最適解を見つけるには、前年の業績などから何パターンもシミュレーションして見つけ出すしかありません。

 

社長の報酬の決め方

社長の報酬は一度決めたら1年間は変更しないでください。1年の間に社長の報酬を変更してしまうと、会社の税金にも社長の税金にも節税効果をもたらしません。

 

それは社長の報酬を損金に計上するためには、

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 利益連動給与

の3つのルールを厳守しなければならないからです。

 

もしこのルールを破って社長の報酬やボーナスを年度途中で上乗せすると、損金に算入できなくなります。その結果「ただ社長の税金が増えただけ」という状況に陥ります。

3ルールを解説します。

 

定期同額給与とは

定期同額給与とは、社長の報酬を毎月同じにすることです。事業年度の期首に社長報酬を決めたら、期末までその額を変更しないでください。

 

事前確定届出給与とは

事前確定届出給与とは事前に金額と支払い日を決めたボーナス以外を支給してはならない、というルールです。

 

利益連動給与とは

利益連動給与とは、利益を基準にした報酬体系にするというルールです。事前にルールを決めたら、その金額だけを社長に支払わなければなりません。

 

なぜ3条件があるのか

なぜ社長の報酬を事前に決めておかなければならないのかというと、「思っていたより利益が多く出てしまったな。このままだと法人税が高くなるから、社長に特別ボーナスを出してしまおう」という行為を予防するためです。

社長は「会社の税金+社長個人の税金」を最小限にしたいと考えますが、税務署の役目はこれを最大限にすることだからです。まさに、社長と税務署のせめぎ合いです。

 

まとめ~自分のものであって自分のものでないもの

創業者でオーナーでもある社長が、「この会社は私のもの」という意識を捨てられるかどうかは、会社の成長に関わる一大事です。

なぜなら「会社は株主のもの。だから会社は株式のほとんどを所有している自分(オーナー社長)のもの」と強く考えすぎてしまうと、「会社は社員のもの」「会社はクライアントのもの」「会社は社会のもの」という視点を見失ってしまうからです。

社長の報酬を決めるときも「会社の発展のためにいくらが妥当なのか」という検討が必要でしょう。

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