税金に詳しくない人が「法人住民税」と聞くと、ある違和感を持つと思います。
「法人って企業のことでしょ。企業って住民なの?」と感じませんか。
この違和感はとても大切で、なぜなら「企業には法人格がある」ということを理解するきっかけになるからです。
日本に住む人は、法律に関係する行為を行うことができます。例えば、水道を使うことも、学校に通うことも、法律に関係する行為です。
そして企業も、法律に関係する行為を行うことができる、と考えられています。しかし実際は、企業は生物ではないので行為をすることはできません。それで企業を代表した人が企業に代わって行動を起こしたとき、それを企業の法律行為とみなすのです。企業を代表して法律行為を行う人のことを、代表取締役といいます。
「社長」や「CEO(最高経営責任者)」といった名称はあくまで俗称で、法律的に意味があるのは「代表取締役」という肩書きです。
企業などの法人は、このように法律を行う主体とみなされるので、住民税が発生するのです。法人住民税は「企業も住民である以上、法律にのっとった行政サービスを受けているのだから、その分の税金を負担してください」という考え方なのです。
そのように考えると、住民に行政サービスを提供しているのは、国ではなく、都道府県と市区町村という地方自治体なので、「法人住民税は地方税である」ということも理解できると思います。
法人住民税の位置づけ。「法人」が付いた税金の1つ
税金の中には「法人」と付いた税金が4つあります。
法人税 | 国税 | |
法人住民税 | 都道府県税、市区町村税 | |
法人事業税 | 元は同じ税だった | 都道府県税 |
地方法人特別税 | 国税だが、後で都道府県に再配分する |
地方法人特別税は、元は法人事業税でした。法人事業税の一部を切り離し、地方法人特別税として国が企業などから税金を徴収し、そのうえで国が地方間の税収のバランスを考えながら、都道府県に税金を再配分するのです。
よって、地方法人特別税を法人事業税の1つと考えてしまえば、「法人」と名の付く税金は、法人税と法人住民税と法人事業税の3つしかないということです。
法人には企業のほかに、社団や財団、公益法人などもあります。
しかしこの記事では企業に関連する法人住民税の情報のみを掲載しています。
均等割と法人税割がある
法人住民税が特殊なのは、
- 法人税割
- 均等割
の2つがあることです。
法人税割は、所得(儲け)が多い企業ほど多く支払わなければなりません。
均等割は所得に関係なく、企業規模によって税金の額が決まっています。
つまり法人税割は、所得がゼロ円(儲けがゼロ円)または赤字であれば支払わなくていいのですが、均等割は赤字でも支払わなければなりません。
少し話はそれますが、この均等割が「株式会社を設立するコスト」になります。個人事業主のままであれば、支払わなくてよい税金だからです。
均等割の最低金額は7万円です。よって個人事業主が株式会社をおこすかどうか考えるときは、「毎年7万円多く税金を支払ってでも株式会社にしてビジネスを大きくしたほうがもうかるかどうか」が1つの基準になります。
話を法人住民税に戻します。
法人住民税の額の計算式は、
法人住民税の額=法人税割の額+均等割の額
となります。
法人税割と均等割の金額は、まったく異なる計算式で算出しますので、まったく別の知識が必要になります。
法人住民税は都道府県分と市町村分に分かれる。23区は別ルール
なお、法人住民税は、詳しくは法人都道府県民税と法人市町村民税に分かれるのですが、ここでは両者を合わせた法人住民税で解説しています。
さらにいえば、東京23区には法人区民税というものはなく、法人都民税に組み込まれています。こちらも法人住民税として見ていきます。
法人税割
ここでは東京都の資料を元に、法人税割の計算方法を紹介していきます。
計算式に【法人税の額】を使う
法人税割の金額は、
法人税割の額=【法人税の額】×法人税割の税率
で算出します。
つまり、先に【法人税の額】を算出してから、その法人税の額に法人税割の税率をかけて、法人税割の金額を出します。
これは「税金にもう一度税金を課している」わけではなく、「法人税の額を使って法人税割を計算している」といったイメージになります。
赤字企業は法人税割を支払わなくてもよい
ちなみに法人税は、
【法人税の額】=所得×法人税の税率
で算出します。
この式を、上記の法人税割の額の計算式に盛り込むとこうなります。
法人税割の額=【所得×法人税の税率】×法人税割の税率
よって法人税割の額は、所得が小さくなれば減額されますし、所得がゼロ円になったり赤字になれば法人税割の額は0円、すなわち法人税割の分の税金は支払わなくてよい、ということになります。
超過課税とは、超過税率とは
東京都は法人税割に、超過課税という仕組みを導入しています。
超過課税とは「税金を増やす措置」です。規模の大きな企業に「中小企業より多めに税金を負担してください」とお願いしているわけです。
超過課税の対象となる企業には、標準税率より割増の超過税率が課せられます。
超過課税の対象企業と、そうでない企業の法人税割の額は、それぞれ次の計算式で算出します。
超過課税の対象企業の法人税割の額=法人税の額×超過税率16.3%
一般的な企業の法人税割の額=法人税の額×標準税率12.9%
税率は資本金額と所得税額によって異なる
超過税率で計算されるのか、標準税率で計算されるのかは、企業の資本金と法人税の額によって異なります。
- 資本金1億円超の企業:法人税の額に関係なく、超過税率16.3%が適用される
- 資本金1億円以下の企業:法人税の額が1,000万円超だと超過税率16.3%が適用される
- 資本金1億円以下の企業:法人税の額が1,000万円以下だと標準税率12.9%が適用される
企業の規模が大きいほど、ビジネスの規模が大きいほど税金が高くなる仕組みになっています。
均等割
均等割は法人住民税の一部で、企業が稼いだ額に関係なく支払う分です。
均等割の計算方法は都道府県によって異なります。東京都ですと、資本金と従業員数、本社の場所、営業所などの場所などによって細かく分かれています。
東京23区に本社のみがある企業の均等割
東京都の均等割は複雑なので、まずは最も単純なケースから解説します。
東京23区内に本社のみがあり、そのほかに支店や営業所がない企業の均等割は、次の通りです。
資本金 | 従業員数 | 均等割の額(円) |
1千万円以下 | 50人以下 | 70,000 |
50人超 | 140,000 | |
1千万円超~
1億円以下 |
50人以下 | 180,000 |
50人超 | 200,000 | |
1億円超~
10億円以下 |
50人以下 | 290,000 |
50人超 | 530,000 | |
10億円超~
50億円以下 |
50人以下 | 950,000 |
50人超 | 2,290,000 | |
50億円超 | 50人以下 | 1,210,000 |
50人超 | 3,800,000 |
東京23区に本社と2つの営業所がある企業の均等割
次に、本社と2つの営業所を持つ企業で、それぞれの所在地が、
- 本社:東京都A区
- 第1営業所:東京都B区
- 第2営業所:東京都C区
となっている企業の均等割を見てみます。
この場合、2つの営業所分も均等割が課されるのですが、本社分よりは減額されます。
この企業の均等割の計算は以下の表を使います。
資本金 | 従業員数 | 本社の
均等割の額(円) |
営業所の
均等割の額(円) |
1千万円以下 | 50人以下 | 70,000 | 50,000 |
50人超 | 140,000 | 120,000 | |
1千万円超~
1億円以下 |
50人以下 | 180,000 | 130,000 |
50人超 | 200,000 | 150,000 | |
1億円超~
10億円以下 |
50人以下 | 290,000 | 160,000 |
50人超 | 530,000 | 400,000 | |
10億円超~
50億円以下 |
50人以下 | 950,000 | 410,000 |
50人超 | 2,290,000 | 1,750,000 | |
50億円超 | 50人以下 | 1,210,000 | 410,000 |
50人超 | 3,800,000 | 3,000,000 |
この企業が、資本金1千万円以下で、従業員数が50人以下だった場合、均等割の額は170,000円になります。計算式はこうなります。
・本社分70,000+第1営業所分50,000+第2営業所分50,000=170,000
まとめ~2段階方式をクリアできれば単純な仕組み
法人住民税は、法人税割と均等割という2段階方式が難しく感じさせてしまうかもしれませんが、それぞれのルールはとてもシンプルです。法人税の金額が出ていれば、あとは公式に当てはめるだけといった感じです。