社長になりたての方や、これから会社を立ち上げようとしている人は、ぜひ法人税の知識を獲得しましょう。
法人税の仕組みが分かると、
- 経理に強くなり
- 数字に強くなり
- 社内のお金の流れを完全に把握できるようになり
- 的確なタイミングで投資ができるようになる
からです。
つまり社長にとっての法人税の知識は、本業のビジネスを補強する知見に他なりません。
また、法人税の仕組みさえ理解してしまえば、そのほかの税金の理解がスムーズにいきます。
法人税の額はこう決まる
法人税の税としての性質などは後で解説します。まずは法人税の額がどのように確定するかをみていきましょう。
法人税は会社の儲けに対してかかる税金です。儲けにかかる税という意味では、個人が支払う所得税と同じです。
よって、企業の法人税も個人の所得税も額の計算式は、
儲け×税率
これだけです。
しかし儲けの額の算出方法が法人税と所得税では異なるので、やはり法人税専用の知識を身につける必要があります。
法人税の「所得」と会計の「利益」は似ているけど別物
会社の儲けの額を算出する計算式は、
儲け=売ったお金-買ったお金
です。
この計算式をどこかで見たことがありませんか。そうです会計でも、これと同じ計算式が出てきます。
会計では、儲けのことを利益と呼び、次の計算式で算出します。
利益=売上高-費用・損失
一方、法人税では、儲けのことを所得と呼び、次の計算式で算出します。
所得=益金-損金
以上をまとめるとこうなります。
法人税 | 会計 | 儲けとは |
所得=益金-損金 | 利益=売上高-費用・損失 | 儲け=売ったお金-買ったお金 |
所得 | 利益 | 儲け |
益金 | 売上高 | 売ったお金 |
損金 | 費用・損失 | 買ったお金 |
しかし気をつけなければならないのは、
・所得と利益は似ているけど同じではない
・益金と売上高は似ているけど同じではない
・損金と費用・損失は似ているけど同じではない
ということです。
まったく別物であればそれぞれを覚えるしかないのですが、なまじっか似ているために、混同してしまうことが多いのです。
この混同が、法人税の理解を難解にしています。
しかし上の表さえ頭に入れておけばそれほど苦労せずこの仕組みを把握できるでしょう。
所得と利益が微妙に異なるのは法人税と会計の性質が異なるから
法人税における所得と会計における利益が似ているけど微妙に異なるのは、それぞれの金額を出す目的が異なるからです。
法人税における所得は、課税の公正性を保つために算出します。税務署は、不当に経費を使って税金の額を減らそうとする行為を許しません。
一方の会計における利益は、企業の経営状態を反映したものでなければなりません。もし経費をたくさん使って会社の利益が減ったのであれば、会計では減った後の金額が重要になるのです。
「損金不算入」の考え方を身につけよう
法人税での所得の計算は、会計の「利益=売上高-費用・損失」を使って算出します。
法人税の所得の計算式は、
所得=益金-損金
でした。この計算式をベースにして「会計では売上高に入れていたものでも、益金に入れないものがある」「会計では費用・損失に入れていたものでも、損金に入れないものがある」という微調整を行います。
この微調整のことを「税務調整」といいます。所得を税務調整した計算式はこうなります。
所得=(益金算入-益金不算入)-(損金算入-損金不算入)
この計算式の( )を開くとこうなります。
所得=益金算入-益金不算入-損金算入+損金不算入
ここで注目したいのは「+損金不算入」です。これが「会計では費用・損失に入れていたものでも、損金に入れないもの」です。
法人税の額は「所得×税率」で算出するので、所得の額が増えるほど、法人税が増えてしまいます。
つまり「+損金不算入」が増えるほど、法人税が増えるわけです。
裏を返せば、法人税の額を減らすためには「+損金不算入」の額を小さくしなければならないということです。
経営者は、損金不算入になる出費を極力抑えなければなりません。
損金不算入では、
- 交際費等
- 減価償却
- 役員報酬
の3つがポイントになります。
そもそも損金とは
「損金とは」について解説します。
法人税における損金に含まれるのは、「原価」「費用(販売費、一般管理費、その他の費用)」「損失」です。
法人税での交際費等とは
法人税の所得の計算では、原則、交際費等は損金に加えることができません。
交際費は、損金不算入に該当します。
つまり、原則、交際費等を使っても法人税は減りません。
交際費等とは
法人税での交際費等とは、
- 交際費
- 接待費
- 機密費
などのことをいいます。
具体的には、得意先や仕入れ先などのビジネス関係者に対し
- 接待
- 供応(酒と食事で人をもてなすこと)
- 慰安
- 贈答
を与えることをいいます。
これらは交際費等なので、損金に算入できず、よって法人税を減らす効果はありません。
ただ次のものは交際費には入りません。
交際費ではないということは、損金に算入することができます。つまり次のものに経費が発生すれば、法人税を減らす効果があります。
・従業員が行う運動会、演芸会、旅行など
・割り勘をして1人5,000円以下だった飲食費(ただし、飲食した年月日、参加した人の氏名、所属会社名、参加者人数、飲食額、飲食店の店名と住所を記載した書類を保存しておかなければなりません)
・贈答用のカレンダーや手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいなど
・会議の弁当や茶菓子
・新聞、雑誌、放送番組の座談会、記事、放送のための取材の費用
交際費等なのに損金に算入できる(減税効果を出せる)例外
交際費等は「原則」損金に算入できませんが、「例外」的に一部の交際費等は損金に算入できます。
これは、法人税を減らせるチャンスなので、経営者は必ず覚えておいてください。
資本金が1億円以下の企業は、
- 交際費等のうち800万円までは損金に算入できる
- 交際費等の中の飲食費のうち、50%までは損金に算入できる
という、恩恵を受けることができます。
法人税での減価償却とは
減価償却費でも、会計上の減価償却費の金額をそのまま法人税の損金に算入することはできません。
償却限度額を超える部分は、損金不算入となります。
ただ、
- 使用可能期間が1年未満のもの
- 取得価額は10万円未満のもの
は全額を損金に算入できます。
法人税での役員報酬
社長の報酬などの役員報酬は、
- 定期同額給与(給与金額が毎月同じ)
- 事前確定届出給与(事前に金額と支払い日を決めたボーナス)
- 利益連動給与(利益を基準にした給与体系)
のいずれかに該当する場合は、損金に算入でき、減税効果を出すことができます。
もし上記の3項目以外に社長や役員に報酬や給与やボーナスを支給すると、損金不算入となってしまいます。
これは「思っていたより利益が多く出てしまったな。このままだと法人税が高くなるから、社長に特別ボーナスを出してしまおう」という行為を予防する目的があります。
同じ理由から、上記の3項目に合致したとしても、社長たち経営者に不当に高い給与額を設定した場合は税務署から指摘を受けるでしょう。
法人税の計算方法
法人税の計算では、まずは、
所得×税率
を押さえておいてください。
税率は、
- 資本金1億円超の企業:23.4%
- 資本金1億円以下かつ所得800万円以下:15.0%
- 資本金1億円以下かつ所得800万円超:800万円まで15.0%、それを超える分23.4%
となっています。
例えば、A社(資本金1憶1,000万円)とB社(資本金9,000万円)の所得が、どちらも900万円だったとします。すると、法人税の金額は以下のようになります。
法人税額 | 計算式 | |
A社(資本金1憶1,000万円) | 2,106,000円 | 900万円×23.4% |
B社(資本金9,000万円) | 1,434,000円 | 800万円×15.0%+100万円×23.4% |
A社とB社は、所得が同じでも資本金が違うために、672,000万円(2,106,000円-1,434,000円)も法人税が変わってくるのです。
法人税の税としての性質
法人税には、次の3つの性質があります。
- 申告納税方式
- 国税
- 直接税
中でも法人税が申告納税方式であることは、注意が必要です。
法人税は申告納税方式【重要】
税金の支払い方法は、申告納税方式と賦課課税方式の2つがありますが、法人税は申告納税方式で支払います。
申告納税方式とは、納税者(企業)が自分たちで税金の額を計算して、税務署に「この金額を税金として支払います」と申告し、現金を支払う仕組みです。
「自分たちで税金の額を計算していいの?」と感じると思います。自分たちで計算すればいくらでも不正ができてしまいそうな気がします。
そこで税制度では、不正を予防する強力な措置が取られています。
まずなんといっても税務調査です。税務署の職員が企業に立ち入り、帳簿類をすべて確認するのです。最長7年前にさかのぼって調べられます。
税務調査で売り上げや経費などの計算が間違っていたり、ごまかしていたりしたことが発覚すると、本来の税金額より多い税金が課されます。
このペナルティは、間違いやごまかしが悪質なほど高額になり、納税者に「間違ったりごまかしたりすることは割に合わない」と感じさせる効果があります。
悪意がある場合はもちろんですが、税務署には「うっかりしていました」も通じません。
しかも税務署は、節税方法を教えてくれません。企業の経理担当者が税務署に「こういう場合は節税になりますか?」と尋ねれば回答してくれますが、企業の側で節税対策を知らなければ、税務署からは決して「こうすればもう少し法人税が減りますよ」とはアドバイスしてくれません。
つまり申告納税方式には次の2つの恐さがあるのです。
- 間違った申告をするとペナルティを課せられる(うっかりミスでもペナルティあり)
- 節税方法を知っておかないと一切節税できない(自分たちで調べて申告するしかない)
だから社長が税金について学ばなければならないのです。
ちなみに賦課(ふか)課税方式は、国や地方自治体が税金を計算し、それを納税者に知らせ税金を支払わせる仕組みです。固定資産税や自動車税は、通知が来るのを待って支払うので、賦課課税方式になります。
法人税は国税
税金には国に納める税金と、都道府県市区町村に納める地方税に分かれ、法人税は国に納める国税です。
法人税は直接税
税金には直接税と間接税があります。法人税は直接税です。
直接税とは、税金を税務署に支払う者(納税者)と税金のお金を負担する者(担税者)が同じ場合の税のことです。「者」といっていますが、税金用語では「ヒト」だけでなく「法人」も「者」に該当します。
法人税は、企業がお金を負担して、企業が税務署に税金を支払うので、直接税です。
代表的な間接税は消費税です。例えばコンビニでコーヒーを買うと、客はコーヒー代に加えて消費税をコンビニに支払いますが、これはコンビニが一時的に消費税を預かっているだけなのです。コンビニは客から預かった消費税を税務署に納めます。
消費税では、コンビニが納税者で、コーヒーを買った客が担税者と呼ばれます。
事業年度とは
法人税は、企業が事業年度内に儲けたお金に課せられます。
事業年度は会社が自由に定めることができます。
例えば「3月決算」と定めれば、4月1日から翌年3月31日までの365日が事業年度になります。
法人税の申告と納付(支払い)
法人税は、会社で法人税の額を計算し、それを税務署に申告し、それが受理されたらその金額を税務署に支払います。税金を支払うことを「納付する」といいます。
この申告のことを「確定申告」といいます。個人の所得税と同じです。
3月決算(事業年度4月1日~翌3月31日)の会社であれば、5月末までに申告と納付を済ませなければなりません。
中間申告とは
前の事業年度で法人税の額が20万円を超えた場合、その翌事業年度から法人税の中間申告&納付を行わなければなりません。
要するに、法人税の前払いです。
法人税の中間申告&納付の期限は、事業年度の開始から8カ月以内です。
3月決算(事業年度4月1日~翌3月31日)の会社であれば、9月30日までの分を11月30日までに中間申告&納付を行わなければなりません。
当然のことながら、中間申告で納付した法人税の金額は、翌5月末までに行う確定申告&納付の額から減らされます。
以上のスケジュールをまとめるとこうなります。
<法人税のスケジュール表~3月決算の場合>
4月1日 | 9月30日
(6カ月経過) |
11月30日 | 翌年
3月31日 |
5月31日 |
新事業年度スタート | この日までの分の法人税を中間申告&納付として11月30日までに支払う | 中間申告&納付を終わらせる | 事業年度終了 | 中間申告&納付を終わらせる。このときの申告額は中間申告&納付分を差し引く |
まとめ~企業活動とリンクする
最後に示した、法人税のスケジュール表をご覧ください。これは本業のビジネスのスケジュールと似ていますよね。
似ているはずです。法人税は「会社の儲け」にかかる税金なので、税務署はいわば「会社の儲け」を追いかけているのです。
法人税は企業活動と密接に関わっているのです。