580億円相当の仮想通貨NEMが流出した問題が、新たな局面に突入しました。金融庁が2018年2月2日、NEMを流出させたコインチェック(東京・渋谷)に立ち入り検査に入ったのです。
「仮想通貨は危ない」多くの人はそう考えていると思います。
しかし問題発覚後の展開を見ていると、「仮想通貨を無視することのほうが危ない」と思わせます。もっと仮想通貨に関心を持たなければならないな、と感じています。
なぜなら、この問題が詐欺事件ではなく、金融の課題になっているからです。
今回は、国内外の経済の動きを、僕なりに解釈してコメントさせていただきます。
日本経済新聞や東洋経済、プレジデントなどの経済記事を読み、その概要をお知らせし、僕の見解を添えています。
日本の経済問題について、一緒に考えていきましょう。
日経新聞は金融庁の立ち入り調査をこう報じた
2月2日の日本経済新聞は「金融庁、コインチェックに立ち入り検査」の記事で、金融庁が仮想通貨取引所大手コインチェックに、改正資金決済法に基づく立ち入り検査に入ったことを報じています。
コインチェック株式会社は立派なベンチャー企業
記事の概要を紹介する前に、コインチェックについて紹介します。
コインチェック株式会社は、2012年に設立した、資本金9,200万円、従業員71名の企業です。代表取締役の和田晃一良氏は、東京工業大学に入ったものの、起業のため中退しています。そのほかの役員にもエリートが名を連ねています。
コインチェックは今回問題になったNEM(ネム)だけでなく、最も流通しているビットコインも扱っています。
つまりコインチェックは、とても優秀なベンチャー企業といえるのです。
現代版銀行強盗は軽々行える?
そのコインチェックから1月26日に、580億円分のNEM(ネム)が不正に流出してしまいました。サイバー攻撃に遭ったのです。
NEMは仮想通貨なので「紙の紙幣」や「金属の硬貨」はありません。コンピューター上のデータがNEMの「紙幣であり硬貨」です。
つまり今回の問題は、580億円分のNEMデータが盗まれたわけです。
現代版、銀行強盗というわけです。
ちなみに1万円で1億円を用意すると10kgになります。つまり580億円分の1万円札は5,800kg、つまり5.8トンにもなります。乗用車2台分です。
リアルの銀行からリアルの紙幣で580億円を瞬時に強盗することはほぼ不可能ですが、仮想通貨なら軽々行えるという印象を持ちました。
警察ではなく金融庁が動いたワケ
話を金融庁の立ち入り検査に戻します。
金融庁の立ち入り検査の目的は、
- 顧客から預かった資産の管理方法の調査
- セキュリティー対策の健全性の調査
だそうです。
さらに金融庁は日経の取材に対し、
- 顧客保護に万全を期す
- 取引開始まで措置を監視する
- コインチェックの企業統治を検証する
- 財務状況も注視する
と述べています。
そうなのです。金融庁は、銀行強盗事件としてコインチェックに立ち入り調査しているわけではないのです。犯人を探すことが目的ではないのです。
そもそも強盗事件であれば、捜査するのは警察です。
そうなのです。今回の件は「事件」ではなく「金融問題」なのです。
もちろん今後、警察が動いて事件になる可能性はあります。
しかし警察より先に金融庁が動いたということは、金融庁がそれだけ仮想通貨に対し敏感になっているということではないでしょうか。
流出したNEMはフィリピン、そしてチェコへ
次に紹介したい日経の記事は、2月3日付けの「流出した仮想通貨『NEM』、他コインに交換か」です。
この見出しの「流出した」という文字が気になりませんか。「盗まれた」という言葉を使っていないのです。日経も今回の件を強盗事件ではなく金融課題として見ているのでしょう。
話を本題に戻します。
この記事は、コインチェックから流出したNEMがフィリピンとチェコで見つかったことを報じています。
フィリピンのIT企業が、仮想通貨で資金の提供を呼び掛けたところ、コインチェックから流出した(盗まれた)NEMのうち22万円分が振り込まれたというのです。つまりこういうことです。
・フィリピンのIT企業が「当社に資金提供してください。リアル通貨ではなく、仮想通貨で投資してください」と呼びかけた
↓
・コインチェックからNEMを盗んだ者が、22万円分のNEMをフィリピンIT企業に振り込んだ
チェコでは、仮想通貨をリアル通貨に両替できる口座に、コインチェックから流出したNEM12万円分が振り込まれました。NEMを現金化しようとしたわけです。似たようなことは、アメリカとニュージーランドでも起きています。
NEMの管理団体はどう動くのか
そもそもNEMは、コインチェックが発行しているわけではありません。日本円の紙幣は日本銀行が印刷していますが、コインチェックはNEMを生み出しているわけではありません。
コインチェックは取引所です。「NEMを買いたい」という人に、NEMを渡して日本円を受け取ります。または、「NEMを売りたい」という人に、日本円を渡してNEMを受け取ります。
その際に発生する手数料が、コインチェックの収入になります。
では、NEMを管理・普及しているのは誰なのかというと、ネム財団という団体です。
そのネム財団は、今回の流出問題について、世界の仮想通貨交換業者に不正流出したNEMが持ち込まれても取引に応じないよう要請しているそうです。
しかし日経は厳しい見方をしています。ネム財団がそのように要請したところで、流出したNEMの分散が続けば監視が難しくなり、いつかどこかでリアル貨幣に換金されるのではないか、としています。
まとめ~頑丈な金庫は強盗たちがつくった?
今回のNEM流出問題について、貨幣通貨の問題点が洗い出される機会になる、と指摘した専門家もいました。
それを聞いて「なるほど」と思いました。リアルの銀行であれだけ頑丈な金庫がつくられるようになったのは、数々の銀行強盗を経験したからです。それと同じように、今回のようなサイバー攻撃による「現代版銀行強盗」が起きることによって、仮想通貨がよりいっそう強くなるかもしれないのです。
金融庁の対応といい、仮想通貨の流れを把握する技術といい、関係者の仮想通貨への本気度がうかがえます。
参考資料
「金融庁、コインチェックに立ち入り検査」(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26457920S8A200C1MM0000/?n_cid=DSTPCS001
「流出した仮想通貨『NEM』、他コインに交換か」(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26503380T00C18A2EA4000/?nf=1
「Coincheck ビットコイン取引所」(コインチェック)
「代表取締役社長 和田晃一良」(コインチェック)
http://corporate.coincheck.com/#member
「一億円パック」(日本銀行)
https://www.boj.or.jp/z/tour/b/shinkan/1oku.htm
「ネム(NEM)/ XEMとは?概要と最新情報」