個人事業主が配偶者に給与を支払うと、所得税を減らすことができる場合があります。
それは、配偶者に支払った給与が、個人事業主の「経費」とみなされるからです。経費の額が増えると所得税が減ります。
ただこの節税方法は「良い話」ばかりではなく、
- いくつかの条件をクリアしなければならない
- ほかの控除を受けることができなくなる
というデメリットがあります。
ルールは単純ですので、しっかり押さえておいてください。
白色と青色では仕組みが違う
給与を支払って節税効果が期待できる対象は、配偶者だけではなりません。
個人事業主が、生計を一緒にしている家族に給料を支払うと節税になることがあります。
ただ、白色申告者と青色申告者では、所得税の減り方が異なります。
白色申告者の所得税は、控除によって減ります。
青色申告者の所得税は、経費化することによって減ります。
結論からいうと、経費化のほうが控除より節税効果が高いです。それは税制では、青色申告のほうが優遇されているからです。
それでは次の2つの仕組みを詳しく見ていきましょう。
- 白色申告の事業専従者控除
- 青色申告の事業専従者給与の経費化
白色申告の事業専従者控除とは
白色申告者が配偶者などに給与を支払うと、「事業専従者控除」を受けられるかもしれません。
控除を受けることは「嬉しいこと」なのですが、逆に言うと、白色申告者は、配偶者などに支払っている給与を経費化することはできません。
経費化できないことは、「悲しいこと」です。
ちなみに事業専従者とは「個人事業主の仕事を手伝っている配偶者などの家族」と理解しておいてください。詳しくは、後ほど解説します。
どれくらい所得税が減るの?
白色申告の事業専従者控除の額は、
- 事業専従者が配偶者の場合、86万円
- 事業専従者が配偶者でない場合、50万円
となっています。例えば事業専従者が妻と息子の場合、86万+50万=136万円が控除されます。
ただ、解説はこれで終わらないのです。
「控除額=所得税から引かれる額」ではない
86万円や50万円、136万円という金額は「控除の額」であって、「所得税の額から差し引かれる金額」ではありません。
所得税は次の計算式で計算します。
・所得税=(収入-必要経費-控除)×税率-課税控除額
つまり「所得税の額から差し引かれる額」は「86万円(または50万円)×税率」となります。税率は所得の額によって変わり、5~45%となっています。
「所得税の額から差し引かれる額」の最低額と最高額は次の通りです。
最低額 | 25,000円 | 事業専従者が配偶者でなく、税率が5%(個人事業主の所得が195万円以下)の場合
50万円×5%=25,000円 |
最高額 | 387,000円 | 事業主専従者が配偶者で、税率が45%(個人事業主の所得が4,000万円超)の場合
86万円×45%=387,000円 |
結局、白色申告の個人事業主が配偶者などに給与を支払った場合、所得税が25,000~387,000円減る、ということなのですが、まだ続きがあります。
どちらか低いほうが実際の控除額になる
86万円(または50万円)の控除額より、以下の計算式で算出した金額のほうが下回った場合、以下の計算式で算出した額が実際の控除額となります。
・個人事業主の事業所得等÷(事業専従者の数+1)=事業専従者控除額
「事業所得等」とは、個人事業主の本来の商売だけでなく、個人事業主が不動産所得などを得ていたら、それも含まれるということです。
「事業専従者の数+1」とは、もし事業専従者が配偶者だけだった場合「2」が入るという意味です。
シミュレーションしてみよう
それではシミュレーションしてみましょう。
次の白色申告者の事業専従者控除額を計算してみます。
- 事業所得等:500万円
- 事業専従者:妻と息子(2人)
・個人事業主の事業所得等÷(事業専従者の数+1)=事業専従者控除額
なので
500万円÷3=166.6666万円が事業専従者控除額となります。
一方、事業専従者が妻と息子なので、そもそもの控除額は86万(配偶者分)+50万(息子分)=136万円でした。
166.6万円より136万円のほうが低いので、この白色申告者の事業専従者控除額は136万円となります。
適用条件
白色申告者が事業専従者控除を受けるには、配偶者などに給与を支払っていなければなりません。その「配偶者など」の条件は次の通りです。
- 白色申告者と生計を一緒にしている配偶者か家族
- その年の12月31日の時点で15歳以上である
- その年で6カ月超、白色申告者の事業に専ら(もっぱら)従事している
配偶者などは、最低でも6カ月と1日は白色申告者(個人事業主)の仕事を手伝わなければならないということです。
メリット
白色申告の事業専従者控除のメリットは控除によって所得税が減ることなのですが、実はそのメリットはそれほど大きくありません。
配偶者などへの給与の支払いでも、やはり青色申告者のほうがより多くのメリットを得ることができるからです。
デメリット
白色申告の事業専従者控除のデメリットは、配偶者などへの給与を経費にできないことです。
経費にできないことは「痛手」
「86万円(または50万円)の控除」と聞くと、大きな金額に感じますが、個人事業主(白色申告者)からすると、配偶者などに対し給与という大きな出費をしているわけです。
配偶者などへの給与が増えれば増えるほど、経費にできたほうが所得税は大きく減っていきます。
よって、個人事業主の事業が大きくなり、配偶者たちに多くの給与を支払えるようになったら、青色申告に切り替えたほうがよいでしょう。
給与を受け取る配偶者たちの所得税は増えてしまう
個人事業主が配偶者たちに給与を支払うときに注意しなければならないのは、給与もらう側の配偶者たちはその分所得が増えることになる、ということです。
配偶者たちの所得税はその分増えてしまいます。
もし配偶者が外でパートをしていたら、そのパートの所得と個人事業主から受け取る給与を合算し、確定申告をして、増えた分の所得税を支払わなければなりません。
- 個人事業主の所得税は減ったけど
- 配偶者の所得税が増え
- 結局、夫婦の所得税を合算したら税額が増えてしまった
といったことが起きないように、綿密な計算をする必要があるでしょう。
配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は受けられない
白色申告の事業専従者控除を受けると、その白色申告者は配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は受けられません。配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除を受けるには、配偶者や扶養家族が「事業専従者でないこと」が条件だからです。
これは、青色申告の事業専従者給与の経費化でも同じです。
青色申告の事業専従者給与の経費化とは
青色申告の個人事業主が、自分の事業を手伝ってくれる配偶者などの家族に給与を支払った場合、その給与を経費にすることができます。
経費の額が増えるので、所得税を安くする効果が得られます。
どれくらい所得税が減るの?
配偶者などに支払っている給与が高ければ高いほど、経費化による節税効果は高まります。
シミュレーションをしてみよう
例えば、次のような青色申告者(個人事業主)のケースで、所得税がいくら減るのか見てみましょう。
- 個人事業主の収入:1,000万円
- そのほかの経費やそのほかの控除:200万円
- 配偶者への給与:250万円(まだ経費化していない金額)
- 息子への給与:50万円(まだ経費化していない金額)
この青色申告者の所得税の計算式は次の通りです。
・所得税=(収入-そのほかの経費やそのほかの控除-配偶者への給与-息子への給与)×税率-課税控除額
この計算式に数字をあてはめてみます。
計算式の中の「税率」と「課税控除額」は下の表から抜き出します。この方の所得は700万円(1,000万円-200万円-250万円-50万円)です。
・所得税=(1,000万円-200万円-250万円-50万円)×税率23%-636,000円=514,000円
この方の所得税は514,000円でした。
<所得・税率・課税控除額の表>
所得 | 税率 | 課税控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
所得税が半分以下になることも
この方がもし、配偶者や息子たちに給与を支払っていなかったとしたら、所得税額は1,204,000円になっていました。計算式は以下の通りです。
・所得税=(1,000万円-200万円)×税率23%-636,000円=1,204,000円
・1,204,000-514,000=690,000円
ですので、この青色申告者(個人事業主)は、配偶者と息子に給与を支払うことで69万円も所得税を減らすことができたのです。
所得税が半分以下になったわけです。
青色のほうが白色より断然お得
それでは次に、「青色申告の事業専従者給与の経費化」は「白色申告の事業専従者控除」と比べて、どれくらい「お得」なのか見てみましょう。
白色申告の事業専従者控除は、次の通りでした。
- 事業専従者が配偶者の場合、86万円
- 事業専従者が配偶者でない場合、50万円
先ほどシミュレーションした青色申告者は、配偶者と息子に給料を支払っていました。この人が白色申告者だった場合、「白色申告の事業専従者控除」は136万円(86万+50万円)が適用されます。
この方の税率は23%なので、この方が白色申告者だった場合の「配偶者と息子に給与を支払ったことにより節税効果」は312,800円(136万円×23%)となります。
312,800円分、所得税が減るということです。
しかしこの人は、実際は青色申告者なので、実際の節税効果は先ほど計算した通り、690,000円でした。690,000円分、所得税が減るということです。
配偶者に250万円、息子に50万円を給与として支払ったとき、白色と青色では、節税効果に次のような開きがあることが分かりました。
<配偶者に250万円、息子に50万円を給与として支払ったときの節税効果の比較>
青色申告者の節税効果 | 690,000円 | 給与(250万+50万円)×23% | 差額
377,200円 |
白色申告者の節税効果 | 312,800円 | 控除額(86万+50万円)×23% |
このシチュエーションでは、青色申告にしておいた方が377,200円も絶税効果がアップするのです。377,200円も余計に所得税を減らせる、ということです。
適用条件
青色申告者が事業専従者の給与を経費化するためには、配偶者などに給与を支払っていなければなりません。その「配偶者など」の条件は次の通りです。
- 青色申告者と生計を一緒にしている配偶者か家族
- その年の12月31日の時点で15歳以上である
- 青色申告者の事業に専ら(もっぱら)従事している
この3条件は、白色申告の専従者控除と似ているのですが、3番目だけが異なります。白色では「その年で6カ月超、白色申告者の事業に専ら(もっぱら)従事している」となっていました。
ここでも白色より優遇されている
「青色申告者の事業に専ら(もっぱら)従事している」は、「その事業専従者が従事できる期間の半分よりも多く働くこと」と解釈するルールになっています。
例えば、息子が3月末に学校を卒業し、4月から青色申告者の仕事を手伝ったとします。
この場合、息子が「従事できる期間」は4月1日~12月31日までの274日間ですので、「半分より多く働く」とは137日超働くことになります。約4.5カ月働けばクリアできるのです。
白色申告で事業専従者に認められるには、6カ月超働かなければなりません。
青色申告はここでも白色申告より優遇されているのです。
メリット
青色申告者が事業専従者に支払う給与を経費化するメリットは、そのものずばり「経費化できること」です。
シミュレーションでお示しした通り、とにかく「なんでも経費にする」ことは、節税のためには欠かせないことです。
ただ、このメリットを受けるには、2つの注意点があります。
【注意1】むやみに給与を多くすると税務署に指摘される
配偶者や家族が実際は働いていないのに、働いていることにして給与の支払いを偽装した場合、脱税になります。
このようなケースは論外にしても、給与の金額が相場よりかけ離れていると、税務署から厳しい指摘を受けるでしょう。
個人事業主と配偶者などは「口裏を合わせやすい」関係であることは税務署も十分承知しているので、事業専従者に給与を払っている場合は、税務調査でもかなり突っ込んで聞かれるでしょう。
【注意2】税務署に事前に届け出る必要がある
青色申告者が事業専従者(配偶者などの家族)に給与を支払い、それを経費化するには、事前に税務署に届け出る必要があります。
これを「青色事業専従者給与に関する届け出」といいます。
この届け出は、確定申告の対象の年の3月15日までに行わなければなりません。
2018年1月1~12月31日の所得に関する確定申告は2019年2月中旬~3月中旬に行いますが、ここで青色事業専従者給与を経費化するには、2018年3月15日までに届け出をしなければなりません。
デメリット
青色申告の事業専従者給与の経費化には、ほとんどデメリットはありません。
ただ、白色同様、配偶者関連の控除などは受けることはできません。
配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は受けられない
青色申告の事業専従者給与を経費化すると、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は受けられません。
配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除を受けるには、配偶者や扶養家族が「事業専従者でないこと」が条件だからです。
これは、白色申告の事業専従者控除を受けたときも同じです。
まとめ~「給与を支払う」習慣をつけよう
家族に仕事を手伝ってもらったら、給与を支払う習慣をつけておきましょう。
「給与を支払う」とは、単にお小遣い感覚でお金を渡すのではなく、給与明細書をつくり、家族の銀行口座に個人事業主名で給与を振り込むことなどをいいます。
時給なども定めておいたほうがいいでしょう。
個人事業主になった当初は家族に依頼する仕事も多くないので、家族への給与が節税効果に貢献できないかもしれませんが、それでも「給与を支払う」ことを習慣づけておいたほうがいいでしょう。
個人事業主のビジネスは、突如拡大することが珍しくないからです。
そうなったときに、例えば夫婦フル稼働で働いているのに、税務署への手続きや「給与を支払う」ことをしていないばかりに節税効果を得られなければ、その分利益を減らしたことになってしまうのです。