ポートフォリオという言葉は、なんとなく好きではありませんでした。
「難しい言葉をあえて使いたがる人が使う言葉」という印象があったからです。
履歴書、職務経歴書、実績表、作品集などの分かりやすい言葉を使えばいいのに、なぜわざわざカタカナを使うのか、格好つけたいだけではないのか――そう思っていたのです。
それでポートフォリオという言葉をできるだけ避けていたのですが、突然考え方が変わりました。
ポートフォリオは使える、と思い始めたのです。
ポートフォリオを解説する前に、僕がポートフォリオを好きになったきっかけからお話します。
ポートフォリオは転職活動に活かせる
僕がポートフォリオを「良いもの」と感じるようになったのは、転職活動に使えるのではないかと気が付いたからです。
もちろんポートフォリオを使った転職活動は以前から存在しました。
デザイナーなどのクリエイティブ系の人は、これまでの自分の作品をまとめて転職希望先企業に提出し、プレゼンしています。
その作品集のことをポートフォリオと呼んでいるのです。
営業職だって使っていいはず
僕は、この手法は一般のサラリーマンの転職にも有用なのではないかと思ったのです。
例えば営業畑の人が転職を決意して、次の職場も営業職を探し始めたとします。
この場合、履歴書と職務経歴書を転職希望先企業に提出するわけですが、このとき一緒にポートフォリオもつくってみるのです。
もちろん、営業職の社員を募集している企業は、入社希望者にポートフォリオを求めません。履歴書と職務経歴書だけで十分です。
それでもあえてポートフォリオを提出するのです。
営業トーク集をポートフォリオに加える
僕が転職を考えている営業マンに提案したい、転職活動用資料としてのポートフォリオは「私の営業トーク集」です。
優秀な営業マンは独自の勝利の方程式を持っていると思います。
飛び込み営業の段階から契約締結に至るまでの各局面でやるべきことを心得ているはずです。
そしてその各局面で「どのようなトークを繰り出せば次に進めるか」という、必殺の営業トークを持っているのではないでしょうか。
それを、独自の営業マニュアルとしてまとめている営業マンもいるでしょう。
その営業マニュアルを少し加工するだけで、転職ポートフォリオの一資料になります。
その「私の営業トーク集」を履歴書や職務経歴書と一緒に転職を希望する企業に提出すれば、企業の採用担当者はその応募者に対して「戦略的に営業活動を進める人」と認識するはずです。
採用面接が営業戦略会議になる?
「私の営業トーク集」に加えて「成功事例集」や「年別月別売上推移表」も提出すれば、転職ポートフォリオはさらに充実します。
その人の採用面接は単なる質疑応答に終わらないでしょう。
採用面接者は営業トークや成功事例、売上推移について突っ込んだ質問をするようになるので、さながら営業戦略会議のような内容になるはずです。
そこまで充実した採用面接を展開できた人を、採用担当者が落とすはずがありません。
新しい上司に短期間で自分を知ってもらえる
転職ポートフォリオのおかげで、採用面接の段階で応募者の営業スキルが判明するので、採用と同時に配属先まで決まるかもしれません。
転職ポートフォリオを読めば、どの部署で力を発揮できる人物なのかが分かるからです。
採用面接で使われたポートフォリオは、人事部の採用担当者から配属先の上司に渡るでしょう。
上司は、新しい部下が配属される前にその人のスキルを把握できるわけです。
そのため、転職してすぐにそれなりの仕事を任せてもらえるようになり転職ロスが生じにくくなります。
転職ロスとは、転職直後に100%のパフォーマンスを発揮できない状態のことをいいます。
転職直後は会社の雰囲気に慣れたり、周囲に自分のことを知ってもらったりするのに時間がかかるためです。
履歴書や職務経歴書が「形式ばった自己紹介ツール」だとしたら、ポートフォリオは個人の実質をありのままに伝える「リアルな自己紹介ツール」なのです。
そもそもポートフォリオとは
ポートフォリオ(portfolio)の元々の意味は「紙ファイル」です。
たくさんの資料を使うときに、そのままカバンの中にいれたらばらばらになってしまうので、紙ファイルに挟んで運ぶと思います。
そこから転じて、多数の資料をパッケージングしたものをポートフォリオというようになったのです。
クリエイティブ系の転職ではおなじみ
日本で最初にポートフォリオという用語が広まったのは、クリエイティブ系の転職シーンでした。
クリエイティブ系の人材を採用する企業は、履歴書や職務経歴書の内容より、「この人はどのような作品をつくるのか」に興味があるわけです。
さらに採用担当者は、応募者がまぐれでヒットした渾身の作品を1つだけを持ってこられてもその実力を判断できないので、いくつかの作品をながめてみたいと考えます。
それで、クリエイティブ系の転職では、応募者が多数の作品をパッケージングして、転職希望先企業に提出する慣習が生まれました。
このパッケージングされた作品のことを、ポートフォリオと呼ぶようになったのです。
金融業界でのポートフォリオ
金融業界にもポートフォリオをという言葉が使われています。金融機関でポートフォリオという言葉が使われるのは、顧客の資産運用をするときです。
お金持ちは資産を分散させる
お金持ちの人たちは、そのお金をさまざまな形に変えて保有しています。
特にマイナス金利時代に突入している現代日本では、現金を銀行に預けているだけではお金はまったく増えません。
それでお金持ちは、株式を買ってみたり、不動産を所有してみたり、ファンドに投資してみたり、金を集めてみたりするのです。
しかも資産を株式、不動産、ファンド、金、国債、為替、絵画などに分散させておくと、どれかが暴落してもすべての資産を失わないで済みます。
これをリスクヘッジ(リスクを回避)といいます。
資産を最大化する最適解
しかし分散投資する最大の目標は、資産を増やすことです。
リスクヘッジのための資産の分散も大切ですが、資産を増やすには最も儲かりそうなものに重点的に投資しなければなりません。
この「何と何に分散させるか」「どこが最も儲かりそうか」「どれにいくら投資するか」を決めたものが金融業界におけるポートフォリオなのです。
つまりポートフォリオとは、資産を最大化するために「いま考えうる」最適解のことなのです。
資産のポートフォリオは絶えず変化する
資産ポートフォリオは、常に洗いなおさなければなりません。
なぜなら経済は絶えず動いているからです。
最強のポートフォリオをつくりあげて資産を増やすことに成功したとしても、それを一時的な成果でしかありません。
ポートフォリオがそのままでは、時代の流れが変わればすぐに資産は縮小してしまいます。
ポートフォリオは絶えず時代を先読みして、常に「いま考えうる」最適解に修正していかなければならないのです。
教育分野でのポートフォリオ
教育分野にもポートフォリオはあります。
教育ポートフォリオは、一見すると転職とも金融とも関係しないのですが、底流に流れる考え方は同じです。
子供の能力判定には大量の資料が必要
子供の能力を、テストの点数だけで測ることはナンセンスです。
正しい選択肢を選ぶことが苦手な子も、記述問題ならすらすら書けるかもしれません。
もしくは、体育や美術、音楽で優秀な成績を残す子もいます。
そもそも学校の勉強が苦手な子供もいます。
しかしそのような子供も、ケーキづくりが上手だったり、バイクの運転がうまかったりするかもしれません。
容姿が良い子供は芸能関係に向いているかもしれません。
学校などの教育機関は、子供のこうした様々な能力をしっかり漏らさず把握する必要があります。
子供の能力が分からないと能力を伸ばしてあげることも、能力が活かせる進路を一緒に考えてあげることもできないからです。
そこでポートフォリオの考え方が生きてくるのです。
子供の資料としてテストの回答用紙だけを保管しておくのではなく、作品や活動、趣味なども集めておくのです。
そのときの最適解を出し、絶えずバージョンアップする点は同じ
そして先生などの指導者は、1人の子供に関する大量の資料にしっかり目を通し、その子にとっての最適解を考えてあげればいいのです。
そして資産ポートフォリオを経済動向によって絶えずバージョンアップさせていったように、教育ポートフォリオも子供の成長や興味の変化に応じてバージョンアップさせていく必要があります。
ポートフォリオの考え方を自分のビジネスに落とし込んでみる
ポートフォリオはシーンによって、
- 転職資料
- クリエイティブ系作品集
- 分散投資の資料
- 子供の能力測定
などの用途に使えることをご理解いただけたかと思います。
このように並べるとまったく異なる用途なのですが、ポートフォリオには次のような共通点があります。
- 資料をたくさん集め、実態や本質をリアルにとらえようとする
- 最適解を目指す
- 状況に応じて内容を変える
転職を考えていなくても、金融資産を運用していなくても、自分自身のポートフォリオをつくってみてはいかがでしょうか。
自分ポートフォリオには、可能性も長所も欠点も盛り込まれるので、いますべきことや次の5年で取り組むべきことが見えてくるはずです。