孫正義さんはいまもソフトバンク帝国の総帥「ソフトバングループ株式会社代表取締役会長兼社長」ですが、実は一時期、第一線を退いて後進を育てると言っていました。
しかしあることがきっかけとなり、引き続き社長として会社を牽引(けんいん)することにしたのです。
それはシンギュラリティを見たかったからです。
孫さんは経済人としてIT関係者として、シンギュラリティを見ずに引退できないと考えたのです。
経済の巨人をもう一度奮い立たせたシンギュラリティとは、いったい何なのでしょうか。
この記事の目次
シンギュラリティが起きる前でも十分すごい
シンギュラリティのすごさを知るためには、シンギュラリティでない状態でも十分すごいということを知っておく必要があります。
2018年はまだシンギュラリティは起きていませんが、実はものすごい時代に僕たちは生きているのです。
49年前のアポロ11号は乗用車に及ばない
人類を初めて月面に立たせたのは、アメリカのアポロ11号でした。それは1969年のことであり、2018年から見ると49年も前のことです。
もちろんそのころシンギュラリティは存在していませんし、おそらくその言葉を知っている人すらごくわずかなはずです。
しかしアポロ11号から49年経ったいまでも、簡単に月に行くことはできません。
ということは、アポロ11号はものすごいコンピュータが積まれていたのでしょうか。
そうではありません。
アポロ11号に搭載されたコンピュータの実力は、現代の乗用車にのっているコンピュータより貧弱なものだったのです。
日本では現在、毎年500万台の乗用車が販売されています。
その乗用車に1人乗ったとしても、日本は毎年500万人を月に行かせる能力を有していることになります。
現代ですらまだ、シンギュラリティには到達していません。
それでも現代の人類は、月に行く能力を簡単に保有することができているのです。
シンギュラリティの進化のスピードはけた違い
現代社会の進化もかなり速いのですが、シンギュラリティの進化スピードはこんなものではありません。
わずか10歩で100歩進む
普通の進化のスピードが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10だとします。
しかしシンギュラリティの進化はXの二乗で進化していくのです。
計算式はX×Xとなります。
つまりシンギュラリティは、1(1×1)、4(2×2)、9(3×3)、16(4×4)、25(5×5)…100(10×10)と進化していくのです。
通常の進化がようやく10に達したところで、シンギュラリティは100に達しているのです。
10万歩すすむと100億倍になっている
もっとすごいことが起きます。
普通の進化が10、100、1,000、10,000、100,000(10万)と進んだら、シンギュラリティはこのように進化します。
100(10×10)、10,000(100×100)、1,000,000(1,000×1,000)、100,000,000(10,000×10,000)、10,000,000,000(10万×10 万、100億)
通常の進化が10万に達するとき、シンギュラリティは100億になっているのです。
その進化は政情にも経済状況にも左右されない
シンギュラリティの定義はおいおい説明しますが、ここでは「コンピュータの進化」と覚えておいてください。
シンギュラリティがすごいのはずっと進化し続けることです。
様々なビジネスシーンの進化は、その国の政情や経済状況によって影響を受けます。
政治が不安定になったり不景気に襲われたりすると、ビジネスは停滞します。
日本でも、政権が交代すると日経平均が8,000円台に落ち込んだり、再び政権が戻ると23,000円になったりします。政治の不安定さが経済を3倍も動かすのです。
しかしシンギュラリティは、政情不安はおろか、戦争が起きてもその歩みを止めないのです。なぜならシンギュラリティは、政治がタッチしないAIとクラウドで成長するからです。
少し話が大きくなりすぎましたので、話を単純化します。AIとクラウドについては後で解説します。
iPhoneが5万円以下で買えることは奇跡
私たちが科学の進歩を肌で感じられるのは、テレビやパソコン、スマホではないでしょうか。
テレビもパソコンもスマホも、性能の割に値段は高くなっていません。
ガラケーと揶揄される携帯電話の性能と、いまのiPhoneの性能の格差を考えたら、本来は、iPhoneは一部の超富裕層しか持つことができない値段になっていてもおかしくありません。
ガラケーが2万円なら、iPhoneは200万円でも安いくらいでしょう。しかし実際のiPhoneは5万円足らずで買うことができるのです。
これほど安いのは、技術が急激に進化したことで製品がどんどん陳腐化し、珍しいものではなくなったからです。また製品の製造過程が見直され、どんどん製造コストが下がっていったからです。
今日のテレビもパソコンもスマホも、まだまだシンギュラリティには到達していないのですが、それでもこれだけ進化しているのです。
しかし、テレビ、パソコン、スマホは、必ずシンギュラリティに飲み込まれます。そのときこれらの製品はどのようになっているのでしょうか、とても楽しみです。
シンギュラリティの影響を受けない自動車は性能が6倍に上がっただけで価格は15倍に跳ね上がる
テレビ、パソコン、スマホはシンギュラリティ化することは確実ですが、現代の自動車業界は、まったくシンギュラリティの影響を受けていません。
そのため自動車は、とんでもない価格設定になっているのです。
国産の100馬力程度の自動車は200万円ぐらいで買えますが、そのわずか6倍の600馬力の外車は3,000万円にまで跳ね上がるのです。
自動車の技術はシンギュラリティ的ではないので、少し技術が向上しただけで値段が跳ね上がってしまうのです。
シンギュラリティがいかに消費者にメリットをもたらすか、ご理解いただけますでしょうか。
AIとは
シンギュラリティについては、先ほど「コンピュータの進化」と解説しました。
ではコンピュータの進化とはなんでしょうか。
それは人工知能(AI)です。
賢い人がさらに勉強するようなもの
現行のコンピュータも、相当賢い存在です。
しかしAIは、それを上回る賢さであると言われています。
ではコンピュータのチャンピオンであるスーパーコンピュータとAIでは、どちらが賢いのでしょうか。
答えはAIです。
AIはすぐにスパコンを追い抜く
ただAIはまだ開発途上なので、いまガチンコ勝負をしたら、スーパーコンピュータが勝つかもしれません。
しかしAIは負けたことから学びますので、そのうち簡単にスーパーコンピュータを打ち負かすでしょう。
AIは、東大に入ることができるような賢い人が、休まず勉強し続けているようなものです。
きょうより明日のほうが確実に賢くなっていますし、あさってにはさらに賢くなっているのです。
人の知能を簡単に超える
「A」というAIがある課題に悩んだときに、ほかの「B」というAIに相談しその悩みが解決したとします。
するとAI「A」が賢くなるばかりか、AI「B」も世の中にそのような課題が存在することを学習し、次に同じ課題が出たときにより早く正しい答えを出せるようになるのです。
AIが「A」「B」だけでなくどんどん数を増やしていったら、AIは短時間の間に人間の知能を追い抜かしてしまうでしょう。
知能ばかりか、知識も膨大な量になります。
知能と知識が爆発的に増加する状態のことを、シンギュラリティというのです。
生産技術の革新も大きな影響をもたらす
シンギュラリティは、生産技術の革新ももたらすので、これまでより安くAIを生産することができます。
値段が安くなると普及は加速度的に速くなるので、このこともシンギュラリティの膨張を手助けすると考えられています。
クラウドとは
シンギュラリティには、クラウドも欠かせません。
クラウドとは、コンピュータのデータを雲(クラウド)の中に保存してしまう技術です。
雲といっても、もちろん本物の雲でありません。
ただ、本物の雲と同じように、クラウドには誰もがアクセスすることができます。
自宅のパソコンのデータ保存能力やデータ処理能力には限りがありますが、データをクラウドに預けてしまい、クラウド上でデータを処理してもらえば、素早く、かつ確実に欲しいデータを手に入れることができます。
あなたはもうクラウドを使いこなしている
グーグルのGmailやヤフーのYahoo!メールを使っている人は、すでにクラウド技術を活用していることになります。
単純な例ですが、自分のパソコンから自分のGmailアドレスにエクセルのデータを送信し、出張先のパソコンで自分のGmailを開いてそのエクセルを開いて仕事をすれば、それだけで「クラウドを使ってビジネスをしている」ことになります。
クラウドによってシンギュラリティは生きたデータを獲得する
なぜクラウドがシンギュラリティを手助けするのかというと、「クラウドを使うこと」は人々が自分の「データを他人に預けること」に他ならないからです。
シンギュラリティは技術の話です。
しかし実際に僕たちが手に入れたいのは生のデータやリアルな数字です。
ですので、クラウドで生のデータやリアルな数字を手に入れることができれば、シンギュラリティは僕たちにとってより使いやすくなるということです。
世の中と人類はどう変わるのか
想像してみてください。
アポロ11号より、毎日使っている乗用車のほうが高性能なのです。
それと同じように、かつて、ビル1棟分のコンピュータはスマホの大きさにまで縮まりました。
シンギュラリティが起きれば、アポロ11号の性能は細胞1個分のコンピュータにおさまるかもしれないのです。
アポロ11号の重量は2,941トンもあります。それでようやく3人の宇宙飛行士を月に降ろすことができました。
それがシンギュラリティの時代になると、細胞1個で3人を月に飛ばすことができるのですから、シンギュラリティ・パソコンができたら何ができるか、想像しただけでワクワクしませんか。
《参考資料》
「会社概要」(ソフトバンクグループ株式会社)
https://www.softbank.jp/corp/about/profile/
「新車・年別販売台数」(日本自動車販売協会連合会)
http://www.jada.or.jp/contents/data/type/type00.html
「孫正義氏、MWCの基調講演に登場 『2018年にシンギュラリティが現実に』『1兆個のIoTチップを出荷』」(ASCII×デジタル)
http://ascii.jp/elem/000/001/443/1443828/
「アポロ11号」(宇宙情報センター、JAXA)
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/apollo_11.html
「iPhone料金シミュレーション」(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/iphone/charge/
「『AIが人類を超える』どころじゃない! こんなに凄い『シンギュラリティ』の衝撃」(幻冬舎plus)
http://www.gentosha.jp/articles/-/8000
「レイ・カーツワイル:今後現れるシンギュラリティ(技術的特異点)を学ぶ大学」(TED)