ブルーオーシャン戦略とは、企業の経営戦略にかかわる考え方です。
誰もいない海、美しいサンゴ礁、豊富な漁場、そんな天国のような場所でバカンスを過ごせたらいいですよね。
それと同じくらい快適かつ簡単にビジネスができる市場を、ブルーオーシャン市場といいます。
――と、理解するのは危険です。
副業を始めようとしている人の中には、「ブルーオーシャン戦略でしか勝てない」と思っている人がいます。
それは100%間違いというわけではありませんが、ブルーオーシャンだけにこだわるのはリスキーです。
あなたのブルーオーシャンは、レッドオーシャンの中に存在するかもしれないのです。
ブルーオーシャン戦略の基礎
まずはブルーオーシャン戦略の基礎について解説します。
ブルーオーシャン戦略が登場したのは2005年です。フランスの2人の経済学者が「ブルーオーシャン戦略」という本を出し、注目されました。
レッドオーシャンの逆の概念
ブルーオーシャンは「レッドオーシャンの逆の概念」として考えると理解しやすいでしょう。
レッドオーシャンとは、血で血を洗う激戦が繰り広げられた市場のことです。
熾烈な開発競争や価格競争が展開され、競争に負けた者は息も絶え絶えで市場から去っていきます。
レッドオーシャンで戦うことは、浪費、徒労、損失、敗北、破綻を意味します。
というのも、仮にレッドオーシャンの中で勝ったとしても、利益は薄く、消費者からは軽く見られ、働く者のモチベーションは下がる一方だからです。
しかしレッドオーシャンで長く生きてきた企業は、そこから脱する勇気を持てなくなっています。
なぜなら「それでも食べていけるから」です。レッドオーシャンの中に居続けると、外の世界のほうが赤く残酷だると思えてくるのです。
売上は総どり、売れるほどに値段を上げていける
だから最近の人は、レッドオーシャンに飛び込まないようにしているのです。
いま人気なのは、断然ブルーオーシャン市場です。
なぜならブルーオーシャンは、
- 浪費ではなく、活用
- 徒労ではなく、快活
- 損失ではなく、獲得
- 敗北ではなく、勝利
- 破綻ではなく、発展
の世界だからです。
そして働けば働くほどやりがいを感じることができるのです。
ブルーオーシャンは、未開拓の市場のことです。
だからライバルはいません。
製品やサービスをつくればつくっただけ利益が上がります。
どんどん売れれば、どんどん値段を高くすることができます。
何しろライバルがいないので、その製品やサービスを求める客が後を絶たないからです。
差別化と低コスト化
さて、僕のコラムを継続して読んでくれている人は、そろそろ「ブルーオーシャンっておいしすぎないか」「そんなにうまくいくわけがない」と感じているのではないでしょうか。
あなたのその警戒心は、正解です。
ブルーオーシャンは、うまみだけの世界ではありません。
なぜなら、誰もがブルーオーシャンを目指しているからです。
でも、なかなか自分の力だけでブルーオーシャンを見つけることはできません。
そこで多くの人たちは「誰かがブルーオーシャンを見つけ、莫大な利益を上げ始めたら話題になるはず。その情報を素早くキャッチして、ブルーオーシャンに2番手として参入しよう」と狙っているのです。
二の矢三の矢と次々打ち放っていかなければならない
すなわち、ブルーオーシャンを見つけて儲け始めても、すぐに誰かがやってきてビジネスモデルを真似されたら、一瞬で血の海になってしまうということです。
そこでブルーオーシャンに向かうときは、市場をつくりだすだけではなく、同時に差別化と低コスト化についても考えておかなければなりません。
差別化の準備とは、真似されたときにすぐにグレードアップ商品を提供できるようにしておくことです。
低コスト化の準備とは、そのグレードアップ商品を従来品と同じ価格で売っても利益が出るようにしておくことです。
当然のことながら、グレードアップ商品や低コスト化も、他社は真似できます。
よって差別化と低コスト化の努力は絶えず続けていかなければなりません。
ブルーオーシャンを見つけても、のんびりとしていられないのです。
次々と矢を打っていかなければならないのです。
いつまで矢を打たなければならないのでしょうか。
それは、ライバルたちが疲れて市場から尻尾を巻いて逃げ出すまでです。
ブルーオーシャンの限界
新規にビジネスを始める人がレッドオーシャンで戦うことは無謀ですが、ブルーオーシャン探しも簡単ではないことをご理解いただけましたでしょうか。
ブルーオーシャン戦略にはまだ難題があります。
これを聞くと、ブルーオーシャン戦略に限界を感じるかもしれませんが、それでも読み進めてください。
はかない夢で終わることもある
ブルーオーシャンは未開拓の市場であると解説しました。
未開拓ということは、まだ市場が存在しないということになります。
ブルーオーシャン戦略を展開する場合、市場をつくるところから始めなければならないのです。
だからブルーオーシャンは、「夢の市場」「夢の戦略」と呼ばれるのです。
夢という言葉は普通、良い意味で使われますよね。
夢は明日への希望ですし、生きる気力になります。
しかし、かなわぬ夢もありますし、夢を見たばかりに道を誤るということもあります。
ブルーオーシャンにも同じことがいえて、未開の地を切り開いてもそこは枯れた土地だった、ということもあるのです。
枯れた土地にいくら種をまいても、いくら水をやっても、いくら肥料を与えても、芽は出ません。だから当然、収穫もできません。
レッドオーシャンでの戦いが徒労で終わるように、ブルーオーシャン探しも徒労で終わる可能性があるのです。
ブルーオーシャンにたどり着けるのは強靭な精神の持ち主のみ?
また、ブルーオーシャンをつくりだすにはコストが必要です。軍資金をつくるか借りるかしないとなりません。
またブルーオーシャン探しをしている間はそのことに専念しなければならないので、日銭が稼げる仕事をする余裕などありません。
借金をした上にしばらく収入ゼロの日が続くのです。
これは精神的には過酷です。
レッドオーシャンから逃げてはいけない
無理に、レッドオーシャンで戦う必要はありません。しかしレッドオーシャンから逃げてもいけないのです。
また、なんのあてもなくブルーオーシャン探しの旅に出ることも、レッドオーシャンで戦うことと同じくらい無謀であることを覚えておいてください。
任天堂は常にレッドをブルーに変える戦略を取る
任天堂はレッドオーシャンから逃げず、しかも常に赤い海を青く染めいく会社です。
任天堂はファミコンで家庭用据え置き型ゲームというブルーオーシャンをつくり出したのですが、ソニーからプレイステーションが出て、家庭用ゲーム市場は一気にレッドオーシャンになりました。
そこで任天堂は2006年に、体を動かしながら遊べるWiiをつくりヒットさせました。
ゲーム業界という真っ赤に染まった海から逃げることなく、むしろもっと血を流す覚悟を決めてWiiをつくり、そして自分の周囲だけブルーオーシャンに変えたのです。
しかし、任天堂がレッドオーシャンの中に居ることには変わりありませんでした。Wii人気は、スマホゲームやネットゲームによってどんどん低下していきました。
すなわち、スマホゲーム企業やネットゲーム企業がブルーオーシャンをつくり始めたのです。
それでも任天堂は赤い海で戦い続けることを選びました。
2017年3月、あの任天堂スイッチを発売し、またゲーム界に旋風を巻き起こしたのです。
任天堂はどんなに不利な状況に追い込まれても自分たちの市場から逃げることなく、愚直に差別化だけを追い求め、常に勝ち続けているのです。
iPhoneでレッドオーシャンに飛び込んだソフトバンク
いまではソフトバンクが携帯電話事業会社であることに違和感を持つ人はいないと思いますが、ソフトバンクが携帯業界に参入したのは2006年のことです。
ソフトバンクはその年、イギリスのボーダフォンから携帯事業を1兆7,500億円で買い、すでにNTTドコモとKDDIauという絶対的な2強が君臨する市場に突撃してきたのです。
これほど鮮明な赤い海に挑んだ孫正義さんは、ブルーオーシャン戦略なんてまったく眼中になかったことでしょう。
しかし、ボーダフォン買収の2年前の2004年に、孫さんはアップル社の創業者スティーブ・ジョブズ氏と会い、iPhone構想について聞いていたのです。
つまり孫さんは、「携帯業界はいまは真っ赤なレッドオーシャンだが、スティーブがつくるiPhoneを手に入れれば、すぐにブルーオーシャンに変えることができる」と考えていたわけです。
iPhoneはいまではドコモもauも扱っていますが、2008年の日本初登場当時は、ソフトバンクだけが扱っていました。
auがiPhoneを扱い始めたのは2011年で、ドコモショップでiPhoneが買えるようになったのは2013年です。
それまでの間、ソフトバンクはiPhoneで稼ぎまくり、そのお金で携帯通信網を整備して、それまで「つながらない」代名詞だったソフトバンクの携帯を、最もつながりやすい携帯に変えたのです。
「逃げている」という意識はもう負けている
ブルーオーシャン戦略は、その名称がキャッチ―なのと、どことなく夢がある話なのでまたたく間にビジネスシーンで語られるようになりました。
そして、その反対の概念であるレッドオーシャン市場は、「そこで戦う意味がない」市場のように考えられるようになりました。
しかし僕は、ビジネスの基本は「逃げないこと」だと思います。
攻めの姿勢でブルーオーシャンを開拓することはよいことだと思います。
しかし、レッドオーシャンから逃げる形でブルーオーシャンを探しに行っても、きっと成功しないと思います。
またレッドオーシャンの中で血まみれになりながら戦い続ける姿も悪くないような気がします。