ネットビジネスは誰でも参入できるというメリットがあります。
ところがそのメリットは、悪も侵入しやすいというデメリットに直結しています。
サイバー攻撃や個人情報の流出などは、ネットのデメリットの最たるものですが、最近「アドフラウド」という新たなネットトラブルが注目を集めています。
アドフラウドは広告詐欺のことで、広告業界の問題です。
しかし、広告業界に関係していない人も関心を持ってください。
なぜなら僕のビジネスも、そしてみなさんの副業も、ネット広告のお金の恩恵を受けているからです。
アドフラウドの実際の被害
アドフラウドのアド(advertisement)は「広告」、フラウド(fraud)は「詐欺」という意味です。
アドフラウドの一例として、金融やネットサービスを手掛けている東証一部企業「G社」(本社・東京都渋谷区)が受けた被害を紹介します。
G社の事業の1つに、手作り製品を売りたい人を支援するスマホアプリがあります。
G社はこのアプリを世に広めるために、CPI課金方式でのネット広告を出すことにしました。
CPI課金方式のネット広告とは
CPIはcost per installといい、1回のインストールに対するコストという意味です。
CPI課金方式のネット広告とは、閲覧者がその広告を経由してアプリをインストールすると、広告主であるアプリ―メーカーが、広告を掲載しているメディア会社に広告費を支払う仕組みです。
みなさんも、普段何気なくいろいろなアプリをインストールしているかと思いますが、その陰でアプリメーカーは、みなさんをインストールに導いたメディアの運営会社に広告費を支払っているというわけです。
インストール数を水増しして報告し広告費をだまし取る
G社は広告代理店を通じて、複数のメディアにCPI課金方式のネット広告を出すことにしました。広告代理店はG社に毎月、広告を掲載したメディアごとのインストール数を報告します。G社はインストール数に応じた広告費を広告代理店に支払います。
広告代理店は、自社の手数料を差し引いて、広告を掲載したメディアの運営会社に広告費を支払います。
ここまでは問題ありません。
ところがG社が独自にインストール数を調べたところ、広告代理店の報告件数より毎月約2万件も少ないことが分かったのです。
G社が支払う広告費は1インストール当たり300円ほどでしたので、毎月600万円も無駄な広告費を支払っていたことになります。
これまでの流れを整理するとこうなります。
G社→広告代理店 | G社が広告代理店に、ネット上のメディアに、CPI課金方式の広告を出すよう依頼する |
広告代理店→メディア企業 | 広告代理店が複数のメディア企業に、G社の広告をメディアに掲載するよう依頼する |
メディア企業が自社のメディアにG社の広告を掲載する。
↓ メディアの閲覧者がG社の広告を見てG社のアプリをインストールする。 |
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★メディア企業→広告代理店 | メディア企業が広告代理店にインストール数を報告する |
★★広告代理店→G社 | 広告代理店がG社にインストール数を報告し、1件300円の広告費を請求する |
G社→広告代理店 | G社が広告費を支払う |
広告代理店→メディア企業 | 広告代理店は自社の手数料を差し引いて、広告費をメディア企業に支払う |
この問題では、★または★★のところでインストール数の水増しがあったと考えられます。
「ボット」がリタゲ広告を狙う
アドフラウド(ネット上の広告詐欺)の手法は複数ありますが、リタゲ広告を悪用したボットという手法はかなり悪質です。
リタゲ広告とは
まず、リタゲ広告について解説します。
リタゲ広告は正確にはリターゲティング広告といいます。
例えばあなたが転職情報を調べようと思い、ネットで、ある転職支援サイトの求人票の一覧を見たとします。
その後あなたが、今日のニュースを知りたいと思い、その転職支援サイトを離れて、まったく別のニュースサイトに移ったとします。
そのときそのニュースサイトに、先ほど見た転職支援サイトの広告が現れます。
なぜあなたのスマホやパソコンは、あなたが閲覧した転職支援サイトの広告を、まったく別のニュースサイトに掲載することができたのでしょうか。
それは、あなたが転職支援サイトを閲覧したときに、あなたが使っているスマホのブラウザが「この人は転職支援サイトを良く閲覧する人」ということを記憶してしまうからです。
ブラウザが記憶することを「属性がつく」といいます。
ちなみにブラウザとはインターネットをするためのソフトのことで、ファイアフォックス、グーグルクローム、インターネットエクスプローラーサファリなどが該当します。
リタゲ広告では、「転職支援サイトを閲覧した」という属性がついたあなたのブラウザを追跡し、あなたがニュースサイトを開いたときに転職支援サイトの広告を出します。
ニュースサイトで転職支援サイトが開かれたときに、広告費が発生します。
リタゲ広告の仕組みをまとめるとこうなります。
- あなたが転職支援サイトを閲覧する
- あなたが使っているブラウザに「転職支援サイトを見た」という属性がつく
- あなたがニュースサイトを開くと、リタゲ広告の機能によって、そのサイトに転職支援サイトの広告が掲載される
- 広告費が発生する:転職支援サイトの運営会社が、広告代理店を通じてニュースサイトの運営会社に広告費を支払う
ボットは24時間同じサイトを閲覧し続ける
つまり、自社のメディアにリタゲ広告を大量に掲載できれば、多額の広告費をいただけるというわけです。
このリタゲ広告を悪用したのが、コンピューターの自動プログラム「ボット」によるアドフラウドです。
悪徳業者はまず、自分用のメディアサイトを作成します。このメディアサイトは、まったくいい加減な内容でかまいません。
ボットは自動でさまざまなサイトを閲覧するようプログラミングされています。
ボットはまず、悪徳業者がターゲットにしているA社の公式サイトを閲覧します。
するとボットに「A社の公式サイトを閲覧した」という属性がつきます。
ボットは次に、悪徳業者がつくったいい加減なメディアサイトを閲覧します。
するとそのメディアサイトに、A社の広告が掲載されるわけです。
リタゲ広告は、閲覧しているのが人なのかボットなのか区別できません。
そのためリタゲ広告は、ボットについてしまった「A社の公式サイトを閲覧した」という属性に引っ張られる形で、いい加減なメディアサイトであってもA社の広告を出してしまうのです。
その結果、A社は自社の広告を掲載してもらった代金として、いい加減なメディアサイトを作成した悪徳業者に広告費を支払ってしまうのです。
ボットはコンピューター上の自動化プログラムなので、24時間ずっとこの行動を繰り返します。またプログラム次第でB社の広告もC社の広告も、そのいい加減なメディアサイトに掲載させることができるのです。
なぜ日用消費財メーカーP&Gが怒っているのか
SK-Ⅱやファブリーズ、アリエールなどの日用消費財メーカーのP&Gが、アドフラウドに激怒しています。
同社の幹部が公の場で「ネット広告に関係している企業たちは、良く表現しても『不透明』。悪く言えば『詐欺的』だ」と批判したのです。
世界中の広告代理店とネットメディアが震撼
P&Gは、アメリカ生まれの世界企業です。
世界で商品を売っているということは、世界的な広告主でもあります。
広告代理店やネットメディアにとってP&Gは、最重要のお客様となります。
P&Gは2017年に、自社のネット広告に関係しているすべての広告代理店とネットメディア企業に、アドフラウドを行っていない証明書の提出を求めました。
ビューアビリティという問題もある
P&Gが問題にしているのはアドフラウドだけではありません。
ネット広告にはビューアビリティ(視認可能性)やブランドセーフティ(ブランドを傷つけるリスク)もあると警鐘を鳴らしています。
ビューアビリティとは、本当に閲覧者はその広告を見ているのか、という問題です。
例えばあるサイトの1つのページが、下にスクロールしてもスクロールしてもなかなか底に到達しない、とても長いページだったとします。
ところが閲覧者がそのページを開くと、そのページのすべてが開かれたことになってしまいます。つまり記事の下のほうに置いた広告も「閲覧した」とカウントされてしまうのです。
ネット閲覧者の多くは長文のすべてを読むわけではないので、長いページの下の広告は目を通していない可能性があります。それでも広告費が発生してしまうのです。
広告を出しているP&Gなどの企業は、誰にも見られることのない広告にも広告費を出していることになります。
ブランドセーフティという問題もある
ブランドセーフティは、広告を出している企業のブランドイメージを損なう可能性があるネット広告のことです。
極右団体のサイトやアダルトサイト、果てはテロ組織のサイトにも広告を掲載する枠があり、そこに普通の企業の広告が掲載されてしまうことがあるのです。
トヨタ、ANA、富士通、キリン、メルセデスベンツといった名だたる企業も、問題のあるサイトに広告を掲載していることが分かりました。
もちろん、こうした企業はそのようなサイトに自社の広告が掲載されることを望んでいません。
広告の掲載を広告代理店に丸投げした結果、いつの間にかそのような事態に陥っていたのです。
P&Gは、ビューアビリティやブランドセーフティについても問題視しています。
まとめ〜企業がネットに嫌気をさすと僕たちが困る
僕にとってネット環境は、絶対に欠かせない存在です。
あなたの副業にとっても同じはずです。
ネットの利用料は驚くほど低価格で、だから僕たちは大きな利益を上げることができるのです。
ネットの利用料が低料金なのは、さまざまな企業がネット広告という形でネット環境を支援しているからです。
企業が、ネット広告はマイナスであると感じたら、広告を出さなくなってしまうでしょう。そうなればネット環境は一瞬で干からびます。
ネットでビジネスをする人は、アドフラウドを監視していかなければならないでしょう。
■資料
「ウーバーVS電通子会社 これは広告詐欺だ」(週刊東洋経済2017年12月23日号)
「P&Gのブランド責任者、怒りのスピーチ」(週刊東洋経済2017年12月23日号)
「蔓延する広告詐欺 偽りの成果で料金請求」(週刊東洋経済2017年12月23日号)
「日本企業が軽視するブランド毀損リスク」(週刊東洋経済2017年12月23日号)